2020年03月18日
世界中に新型コロナウイルスの感染拡大が報じられ、ついにWHOもパンデミックを宣言した。日本も戦々恐々としたムードに包まれている。既に各国の株式市場は大幅に下落しており、反転の兆しが見えないまま推移している。日本における具体的なマーケット・インパクトは、振替休日を挟んで2月25日以降顕著になったが、その前週末(2月21日)から3月13日時点までに日本の株式市場時価総額のざっと150兆円超が吹き飛んだことになる。
この状況下で、あまり楽観的な話題は相応しくないかもしれないが、新たな気づきや存外に生じた効果をSDGs的観点から指摘したいと思う。
まず第一に、「働き方を見直す契機になった点」があげられる。私は、在宅勤務(リモートワーク)が当部の部員に広く浸透することは難しいと考えていたが、今回必要に迫られ実施してみると、想定以上に問題なく運営できることが分かった。お客様とのコンタクトも電話会議システム等を使えば、訪問に係る時間コストを短縮できるため効率的だ。更に、時差通勤との相乗効果により、通勤が“痛勤”でなくなった点も指摘できる。
次に、不要不急の外出・移動が回避され、企業活動も制限されたことで、「二酸化炭素の排出量が削減されている点」である。日本の実績ではないが、フィンランドの研究機関CREAによると、3月1日までの4週間で中国の二酸化炭素排出量は2億トン減少し、前年同期比25%減となった(この減少量はベトナムの年間の二酸化炭素排出量に匹敵するらしい)。おそらく、日本においても一定の削減効果は出ているだろう。但し、経済活動とのデカップリングとして考えれば、諸手をあげて喜べない結果ではあるが…。
最後は、世界的にみて「疫学的なリテラシーの必要性を強く感じた点」をあげたい。マスクの類はまだしも、SNS発の流言飛語でトイレットペーパーが売り切れる事態にはうんざりしたが、個々人が正確な情報と知識を持っていれば、大地震等の大規模自然災害と異なり、ある程度対応できることも分かった。国、都道府県、そして企業や学校等、最終的には個人単位で、Contingency planをしっかりと準備し実行できるか否かで大きな差が出る。
言うまでもなく、SDGsはすべてのステークホルダーが取り組むべきテーマだが、特に企業が重要な役割を担うことに異論はない。上記の事例は、今回の“新型コロナウイルス禍”がなければ企業が踏み込んで取り組めなかった分野だ。
発生源の中国だけでなく日本や世界各国の被害は甚大だが、ただ被害の大きさを憂いているだけでは前に進めない。おそらく、多くの企業は、この惨禍が一段落つくまで積極的なアクションは控えるのだろうが、このタイミングだからこそできるSDGs視点の改革もあるはずだ。知恵と少しのお金を使って小さな改革に取り組む、そんな気概のある企業があっても良いのではないか。
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- 執筆者紹介
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マネジメントコンサルティング部
主席コンサルタント 橋本 直彦
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