「新常態」下で活用が期待される事業会社向け公的資金

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2020年06月23日

6月19日、政府は都道府県をまたぐ移動の自粛を緩和した。しかし、海外の例を見ると、既に経済活動の規制を段階的に緩和した一部の都市で、再び新規感染者数が増えている。今回の移動自粛の緩和により、当座はヒトの流れが活発化すると予想されるが、新型コロナウイルス前の水準への回復が安定化するには、まだ相応の時間を要するものと思われる。

最近では、「新常態(ニューノーマル)」という言葉を見聞きする機会が増えた。在宅勤務の浸透、対面での接客機会の減少、オフィスや工場での隣人との一定程度の距離確保なども、新常態の一部といえる。

社会の変化に対応し、新たなビジネスモデルの確立を急ぐ企業も今後増えると予想される。外食や小売企業のようにヒトの移動の制約に大いに影響を受ける業種や、全国の好立地に店舗を構える金融機関なども、その例に挙げられよう。既に6月に開催される株主総会で、新たな収益機会を確立するため、会社の事業内容等を表す定款の変更を付議している企業もある。例えば、ある大手紳士服チェーンでは、これまでの事業に加え、不動産や店舗設備の売買や賃貸借事業、衣服や皮革のクリーニング事業などを含める内容の定款変更を株主総会に付議し、事業機会を広げる考えを示唆している。

新規事業への参入を公表するということは、実験・検証を繰り返して採算の見通しがたっているからだと考えると、この紳士服チェーンのように今回の株主総会の議案とできるのは早い方である。まさに今、「新常態」の下での新規事業の検証を、多くの企業が行っていることだろう。

このような中、事業会社の利活用が期待されるのが、「政策投資銀行等による資本性資金」である。6月12日に国会で承認された第2次補正予算では、これまでの融資による支援の拡充に加え、資本性劣後ローン、日本政策投資銀行の特定投資業務や産業革新投資機構の投融資枠拡充等、資本性支援が組み込まれた。これらの「資本性資金」は、企業にとっては株式発行による資金調達に近い性格を有しており、より長期的な目的のための資金調達に向いている。

これらの支援は公的資金を活用したものであるため、資金調達した企業で損失が続く場合、公的資金が毀損するリスクがある。しかし、新型コロナウイルス以前の事業環境への回復がいつになるのかの保証がない中、企業が新たな事業機会を探求するのは当然であり、またその必要資金を政府が支援する意義は大きいと言えよう。

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中村 昌宏
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 中村 昌宏