ポストコロナと新しい日銀券
2020年06月18日
ポストコロナがどんな社会であるべきか、議論が盛んである。ただ、第2波、第3波を含め、COVID-19が収束しないことにはどうしようもない。まずは、2021年夏に東京オリンピック・パラリンピックの開催にこぎつけたい。また、日本の実質GDPがコロナ以前の水準に戻るのは、早ければ2024年度となろう。2024年度は新しい日本銀行券が発行されるタイミングでもあり、その頃には現在の心配が払拭されていることを願う。
新千円札の肖像は北里柴三郎である。北里は破傷風の血清療法を確立したり、1894年にペストが蔓延する香港でペスト菌を発見したりした。古代エジプトでも流行していたという説があるペストは、6世紀に東ローマ帝国を中心にパンデミックを引き起こしたといわれている。14世紀には欧州全土で5,000万人の死者を出す黒死病と呼ばれたが、よく効く抗生物質のおかげで、今は治療さえすればペストで命を落とすことはない。新千円札がポストコロナの象徴になると期待したい。
新五千円札の肖像は津田梅子である。津田は1871年の岩倉使節団に満6歳の幼さで随行した日本初の女子留学生である。11年後に帰国すると日本女性の地位の低さに驚愕し、1900年には女子英学塾(現在の津田塾大学)の創立に至る。そこから120年たった今、世界経済フォーラムのジェンダーギャップレポートで日本の男女平等さが世界121位だと知ったら、彼女は何と言うだろうか。コロナ禍がもたらした在宅勤務の普及は、男女の役割分担意識によい変化を促していることを望みたい。
そして、新一万円札は渋沢栄一だ。ポストコロナの資本主義についても論者が主張を闘わせている。どちらかといえば従来のグローバリゼーションや新自由主義を批判的に捉え、公共性や共生の思想、安心感や社会的包摂を重視するようになるといった論調が多いようである。渋沢は、人格形成の重要性と社会貢献を説き、それこそが営利と一体であると考えた人物である。約500の企業の設立にかかわった「日本の資本主義の父」が、このタイミングで肖像となるのは感慨深い。
もともと現在の資本主義は、弱肉強食の市場原理主義でも、公が役割を放棄した自己責任社会でもない。「神の見えざる手」と言ったアダム・スミスも、人間に内在する共感性や道徳が、自由競争を機能させる上での条件と考えていた。資本主義以前の重商主義との対比で言えば、公平・公正なルールの下に生産手段の所有とその自由な発想での活用を広く認めた、多くの人に開かれたシステムである点が資本主義の要諦である。
資本主義とは、道義や寛容を本質的に備えたものだろう。道義とは人のふむべき道であり、寛容とは自身と異なる意見を理解するということだ。地球環境と経済がトレードオフであるはずがなく、イノベーションの源泉は多様性にある。ESG投資やSDGsの視点からの経営は道義と寛容の実践そのものであり、実に資本主義的である。いよいよ資本主義は限界を迎えたという見立てが少なくないが、課題への処方箋は資本主義の内側にあることを渋沢は教えてくれている。
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調査本部
常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
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