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香港の行方

2020年06月11日

経済調査部 主席研究員 齋藤 尚登

中国の第13期全国人民代表大会(全人代)第3回会議は5月28日、香港における反中国的行為を取り締まる国家安全法制の導入に関する決定を採択した。具体的には、①全人代常務委員会が香港における国家安全保障の関連法律を制定する、②関連法律の目的は、香港で発生する国家分裂、国家権力転覆、テロ活動など国家安全保障を著しく害する行為、および域外(外国)勢力による香港への介入活動を阻止し、処罰することである、③中国政府は必要に応じて香港に国家安全保障関連機関を設置し、職責を履行する、とした。

1997年7月1日の英国から中国への香港の主権返還の際には、香港の中国化が進むのか、それとも中国の香港化が進むのか、という議論があった。当時香港に駐在していた筆者は、香港の中国化が当然の帰結であるにしても、それを如何にして限定的にすることができるか、が香港の魅力(機能)維持には死活的に重要であることをレポートした。中国とのゲートウェイである香港の香港たる所以は、香港ドルの米ドルペッグ制や、低税率、ゼロ関税率といった経済的側面だけでなく、法の支配・司法の独立や言論・集会の自由など政治社会的側面にもある。別の言い方をすれば、中国との経済的近さと政治的遠さをできるだけ担保しようとする仕組みが一国二制度であったといえる。外交と軍事を除く高度な自治を認めるのが一国二制度であり、香港の立法会(議会)を経ない国家安全法制の成立は、この制度を形骸化させるとの批判はもっともに思える。

返還前から香港の人達は自らを「香港人」、中国の人々を「大陸人」と呼んで区別していたが、この数年はその思いを一段と強くしているようにみえる。昨年6月の香港の「逃亡犯条例改正案」に反対する大規模な抗議デモでは、①逃亡犯条例改正案の完全撤回、②政府、警察による市民の抗議デモを「暴動」とする見解の撤回、③デモ参加者の逮捕、訴追の中止、④警察による暴力的制圧の責任追及と外部調査実施、⑤キャリー・ラム行政長官の辞任と民主的選挙の実現、が5大要求とされた。一連の抗議デモと直接の関わりがないようにみえる、民主的選挙の実現こそが、究極の要求であることに疑いの余地はあるまい。しかし、後述するように、少なくとも当面はそれが実現する可能性はない。

9月には香港で立法会選挙が予定されるが、国家安全法制が成立すれば、中国政府に批判的な人物は立候補ができなくなる可能性がある。抗議行動が再び深刻化すれば経済活動は停滞するだろう。香港政府がこれを力で抑えれば、中国と香港の政治的一体化の証と認識され、一国二制度の評価はさらに下がることになる。既に、香港では移民が再びブームになりつつあると聞く。残念ながら香港の地盤沈下は続くと想定する必要があろう。

にもかかわらず、中国はなぜ態度を硬化させ続けるのか?「香港問題は中国問題」という言い方がある。これは香港で起きたことはいずれ中国(の一部)で起きる、という意味である。政権交代のあり得る民主的な選挙は考えられないし、最近の香港「独立」主張はもってのほかということになる。「中国の香港化」は夢物語に終わり、現在香港では、共産党一党独裁政権を長期にわたり維持するための実験のひとつが行われている。地盤沈下はその結果とみることができるのではないか。

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経済調査部
主席研究員 齋藤 尚登