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コロナ禍が試す顧客ロイヤリティの維持

2020年05月07日

金融調査部 主席研究員 内野 逸勢

新型コロナウイルスによる各国のロックダウン後を見据えた経済活動の正常化への道を探る動きが報道され始めている。とはいえ、新型コロナウイルスの感染がワクチン、免疫等によって本格的に鎮静されない限り、人命を守る、医療崩壊を防ぐ、生活を守るための医療、経済を含めた様々な緊急対策が優先されるべきである。この前提において、経済活動の正常化への道を同時に考えていかなければならない。

この経済活動の正常化に向けた政策は、新型コロナウイルス以前の経済・社会に戻すことを一義的な目的にする必要がある。その一方、すべてを戻すことが難しいとの前提に立つ識者が存在する。例えば、米国の元国務大臣を務めたヘンリー・キッシンジャーは、「新型コロナウイルス後の世界は、それ以前の世界とは決して同じにならないのが現実である」(2020年4月3日 ウォールストリートジャーナル寄稿文)。これは世界の秩序を評しての表現であるが、事業・企業単位のミクロの世界でも同様のことが言えるのではないだろうか。未曾有の経済危機の状況下でも時勢の動き、つまり変わるものと変わらないものを見極めて、これまでと同じという想定を拭い去ることも一考に値しよう。

コロナ禍後の世界では具体的に何が変わるのであろうか。第一の変化として、国を問わず政府が国民に対して強制的に社会的距離(Social distance)を取ることを求める中で、コロナ禍後もこの行動は定着し、対面取引を回避し、オンラインでの取引を選択する顧客が増えることが指摘できよう。コロナ禍以前にもスマートフォンの普及により、特にBtoCでオンライン取引が主流になるという構造的な変化はすでに想定されていた。その変化が想定よりも早めに実現されうると言えよう。

第二に、密閉、密集、密接の“3密”を伴う物理的な空間を回避することも強く求められていることから、安全・安心な空間への意識が過剰に高まる恐れがある。さらにコロナ禍後には、5Gの導入後押しもあり、バーチャル空間で個々人がつながる世界が拡張される。過剰な意識がニューノーマルになれば、物理的な“3密”を伴うことで付加価値を生んできた業界への影響は大きい。

その一方、変わらないものは何であろうか。まず、上記の二つの変化があっても、喉元過ぎればと言われるように、“人の行動原理はそんなに簡単に変わらない”ことである。緊急事態宣言、ロックダウンによって特定の空間に閉じ込められた経験がトラウマとなって、安全・安心が確認できれば、人との物理的な空間のシェア、人と人との物理的なつながりを、これまで以上に人が求めるようになることも否定できない。人はバーチャルとリアルな空間のバランスが極端に崩れるのは耐えられないのではないだろか。気持ちの発散、解放が急速に物理的“密”を求めるという行動として表れることもあり得る。

次に変わらないものは、社会的、精神的な“密”を人は常に求め続けることであろう。とすれば、物理的な密を伴う顧客接点が当たり前であった企業は顧客との精神的かつ社会的な“密”を維持することに今まで以上に注力する必要がある。つまりコロナ禍は企業に対して、顧客のロイヤリティを試しているとは言えないであろうか。既存の顧客接点でいいのか、顧客本位方針でいいのか、その方針のままで顧客のロイヤリティは維持できるのか、改めて見直す絶好の機会と言える。この顧客のロイヤリティを維持する方法に知恵を絞る必要があろう。従来の延長線上で考えては難しい。顧客のロイヤリティを維持するために既存のやり方を変えるような「創造的破壊」の必要性が高まっているのかもしれない。新型コロナウイルスに負けないような顧客ロイヤリティを確立できれば、様々な危機の耐性は大幅に高まるのではないか。

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内野 逸勢

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金融調査部
主席研究員 内野 逸勢