ビストロに行ったらもつ鍋が出てきた話

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2020年04月15日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 内山 和紀

新型コロナウイルス感染症対策で外食が自粛されるなか、行きつけのあの店は大丈夫だろうかと気が気でならないが、エールも込めて今回はとあるビストロの話をしたい。

少し前、都内でビストロを営むシェフから「試作品ができたから食べに来てよ」と連絡があり、お店に顔を出した。てっきり季節の新作でも開発したのかと思っていたら、出された料理を見て驚いた。ビストロに来たと思ったら、もつ鍋が出てきたのである。

シェフに話を聞くと、店のオーナーから依頼を受けて、わずか3か月足らずでオープンする予定の新店メニュー開発を手伝っているとのことだった。この店のオーナーは、ビストロの他にも都内を中心にフレンチとラーメン屋を数店舗展開しており、どの店舗も好調だということは聞いていた。勢いに乗って都内で新しい業態のお店に挑戦するのかと思っていたが、南国の離島で新店を出すというので再び驚いた。

これまで都内を中心に飲食店を展開してきた企業が、次のステップとして人口の少ない離島への進出を選択したこと、都内の店舗でも取り扱っていなかったもつ鍋を温暖な地域で提供するということ、そして多くのフレンチの有名店で修業したシェフがメニュー開発を行っていること、これを聞くとかなり挑戦的なプロジェクトだ。

フレンチのシェフが開発したもつ鍋なんてなかなか面白いアイデアですねと返したところ、シェフからの返答は意外にも「自分もこれが正解かよくわかっていないんだけどね」ということだった。オーナーから指示を受けて作ったものの、食べてくれるお客様の顔や、その土地の風土など、南国の離島で商品を提供するイメージができておらず、本当に美味しいものを作ることができているか不安だという。

オーナーの頭の中では会社の目指すべき姿が見えており、中長期視点で企業が成長するためには、このプロジェクトに挑戦すべきと判断したのだろう。問題なのは、オーナーがこのプロジェクトをどのように位置付けているかシェフに共有されていないことだ。会社のビジョンや方針が共有されていないと、このプロジェクトが何のために行うのか社員が理解できず、社長や経営陣のただの思い付きの行動のように見えてしまうのではないか。トップが会社のあるべき姿を示し、その中でプロジェクトがどういった役割を果たすかをスタッフ一人ひとりが理解や共感することで、企業は最大限に力を発揮できるだろう。

シェフやオーナーにとって、この状況下では多くの苦難があると思うが、ぜひチーム一丸となって乗り越えてほしい。そして、シェフ特製のもつ鍋を仲間で囲む日が迎えられるよう、新型コロナウイルス感染症が一刻も早く終息することを祈りたい。

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コーポレート・アドバイザリー部

主任コンサルタント 内山 和紀