加速する日本企業のDX

~DX銘柄とデジタルガバナンス・コード~

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2020年03月30日

  • マネジメントコンサルティング部 主席コンサルタント 元秋 京子

デジタル技術の急速な発展に伴い、社会やビジネス環境が大きく変化するSociety5.0(デジタル時代)に向けて、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)(※1)への取組みが加速していきそうだ。

2015年に開始された「攻めのIT経営銘柄」(経済産業省・東京証券取引所が共同で選定)は、DXのグローバルな潮流を踏まえ、2020年から 「DX銘柄」(※2)に名称を改めた。2019年の選定でDXを推進する取組みを高く評価する見直しが一部にあったが、2020年の選定ではDXに焦点を絞り込み、選定基準を全般的に見直している。2020年に重視する選定ポイントとして、ビジネスの変革、戦略的取組み、経営者のリーダーシップが挙げられている。さらにSDGsの17のゴール達成に資する内容が含まれる場合には、加点要素として評価される。

デジタルガバナンス・コードの策定も検討されている。2019年12月に情報処理促進法が一部改正(※3)されたことを受け、企業経営における戦略的なシステム利用の在り方を提示した指針(=デジタルガバナンス・コード)を国が策定し、当該指針を踏まえ、優良な取組みを行う企業を認定する制度(=DX格付、仮称)が創設される。本コードは、ステークホルダーとの対話を基盤として、現在、経済産業省「Society5.0時代のデジタル・ガバナンス検討会」において検討が進められている。本コード(案)の基本的事項は以下のとおりであり、企業がDXを推進していくための主要な視点が示されている。

〔デジタルガバナンス・コードの構成(案)〕

1. デジタル変革を踏まえたビジョン・ビジネスモデルの構築・共有
2. デジタル変革を踏まえた戦略の構築・共有
 ① 組織づくりに関する方策の構築・共有
 ② ITシステム・デジタル技術活用環境の構築に関する方策の構築・共有
3. 成果と重要な成果指標の共有
4. 経営陣や取締役会によるガバナンスの確保

これまで企業においては、経営とITはそれぞれ異なる次元のものとして対応されてきた。しかし、数年前から、情報革命やテクノロジーがビジネスに与える影響等について経営陣が議論するケースが増えてきている印象だ。最近ではデジタル戦略を経営戦略の中に組み込んで議論されるようになり、これらを経営方針・ビジョンとして外部に発信する企業も一部に出てきている。

日本のDX先進企業を調査してみると、実は積極的に推進しているのはDXだけではないケースが多い。コーポレートガバナンスやSDGs・ESGの領域でも、優良企業として登場してくることに気が付く。これらのテーマは直接的・短期的には成果が出にくいものの、中長期視点で取組みを継続・改善していくことで、持続的な企業価値向上に結び付くものであることに共通点がある。

先進企業には、業界を超えた高い視点、短期と中長期目線に立った経営方針・経営戦略、アライアンス等の外部連携の活発化、挑戦の風土・失敗を許容する社風等の特徴が見受けられる。その中でも、社内の横連携を活用し、圧倒的なスピードと推進力を発揮している企業は、やはり経営トップのリーダーシップが強い。また、DX推進の領域では、経営トップのIT・システムに対する知見が深いケースが多く、ビジネスとITとの距離が近い。

企業の持続的成長に向けて、社会課題の解決と経済成長の両立を図ることが求められる中、様々な課題やビジネスのチャンスを的確に捉え、デジタル技術を活用して、各社が独自の付加価値創造を模索していくことは必須といえよう。前述したデジタルガバナンス・コード等も活用し、共通言語による検討・議論が活発化され、日本企業のDXへの取組みスピードがさらに速まることを期待したい。

(※1)企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること(経済産業省「DX推進ガイドライン」)

(※3)情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律(2019年12月6日公布)

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主席コンサルタント 元秋 京子