AIと検索数から考える新型コロナウイルスによる品薄問題

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2020年03月23日

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、消費者の間で買いだめの動きが広がったことを受け、マスクをはじめ様々な品目が品薄状態に陥っている。筆者も手元に不足するマスクを求め、開店前のドラッグストアに何度も並んだものの、入荷自体がないために徒労に終わるケースがほとんどであった。

こうした需給の逼迫状態をより広範囲から捉え、政策当局などが対応を検討する上で役立つ情報はあるのだろうか。そこで、Google Trendsから取得した様々なキーワードの検索件数の活用を試みた。

このデータを用いた主な動機は、求める商品が入手できない場合、人々はインターネットを通じ、オンラインストアからの注文や入荷情報の収集等を試みると思われたためである。さらに、ある程度の速報性を兼ね備えている(本コラムの執筆時点では3日前までのデータが取得できた)ことも、本データを用いる利点の一つであろう。その上で、各種メディアで品薄が指摘されたマスク、トイレットペーパーなど10品目の生活必需品および食料品、また比較対象として歯ブラシと髭剃りの2品目、の日本全国における検索数を取得した(日次ベース、期間は2020年1月1日~3月13日)(※1)。ただし、これらのデータを一度に理解しようとしても、人間の目には複雑すぎるため、データの傾向を掴みにくい。そこで、AIによるクラスタリングを通じて、品目をいくつかのまとまりに分類し、それぞれのグループの特徴を把握しようとした(※2)。

クラスタリングの結果は図表の通りである。

まず、消毒液や除菌ジェルなどが含まれるグループ1は、品切れが慢性的に発生している商品群だと思われる。このグループの検索数は、新型コロナウイルスの日本国内での拡大に対する人々の不安度合いを反映しているように見受けられる。データの動きを見ると、1月末頃に盛り上がり、その後はいったん落ち着いたものの、2月の後半には感染者数の増加ペースと合わせるように一気に加速した。3月に入るとやや落ち着きを取り戻したが、依然として高水準である。

グループ2はマスクのみが属する。基本的に、マスクの検索数の動きはグループ1のそれと類似する。それにもかかわらず、AIが別のグループに分類した理由の一つは、3月以降も高止まりが続いているためであろう。AIから見ても、マスクの品薄は頭一つ抜けて深刻な状況のようである。

グループ3は一時的に需要が急増したグループである。2月末頃に「紙製品が不足する」との情報が拡散したことをきっかけに、人々が小売店にトイレットペーパーやティッシュペーパーなどを我先に買い求めたことは記憶に新しい。この動きに合わせるように、検索数は一時的に急増したが、その後は落ち着きを取り戻している。

最後に、グループ4は新型コロナウイルスの影響を比較的受けなかった商品群だと思われる。もちろん、個々の店舗レベルや商品レベルでは品薄状態のケースも存在すると思われるものの、他のグループと比べると、比較的入手しやすい商品だと思われる。

これらの結果を踏まえると、政策当局には、グループ1や2の商品には、メーカーに向けた生産増の呼びかけ、グループ3に含まれる商品への需要が急増した際は、発端がデマか否かを探り、前者の場合は人々やメーカー、小売店などに注意喚起を行う利用方法が考えられる。他方、グループ4に対して、差し迫った対応をすべき必要性は低いだろう。

このように、検索数データとAIの組み合わせは、使用上の留意点はあるものの(※3)、人々が生活必需品や食料品を購入できない不安を可視化し、政策当局等がより迅速に適切な対応を行う助けになると思われる。新型コロナウイルスは人々の不安を増幅させ、時にはパニックを引き起こす存在である。こうした時だからこそ、幅広いデータとテクノロジーの活用を通じ、早い段階で現実を理解しつつ、的確な判断が求められるのではないか。

(※1)「マスク 不足」、「マスク 品切れ」などより品薄をより想起させる検索語句も検討したが、①全体的にデータの振れが激しくなり、傾向を掴みにくくなった、②検索語句によってはデータが取得できなくなった(検索数が一定ラインを下回ったためだと思われる。)、③より限定された地域で分析しようとする場合、②の問題がさらに顕在化する可能性が高い、ことなどを受け、品目名のみを検索対象とした。
(※2)具体的には、時系列データをクラスタリングする手法の一つであるk-Shapeと呼ばれる手法を用いた。クラスター数はエルボー法に基づき四つと設定した。
(※3)今回のようなケースで注意すべき点の一つは、新商品の発売やメディア露出などがデータの大きな振れに繋がるリスクである。例えば、インスタントラーメンの検索数は3月10日に一時的かつ急激に上昇した主因は、品薄ではなく、同日にとあるテレビ番組でインスタント袋麺が特集されたためであろう。このようなイベントがなければ、インスタントラーメンはグループ4に分類された可能性が高い。このような問題への対応策の一つとして、注目順に並べた関連キーワードの確認が挙げられる。例えば、品薄が深刻なマスクを検索すると、「入荷予定」、「在庫」、「手作り」などの関連キーワードが得られる。一方、インスタントラーメンの関連キーワードは調理法や商品名が多く、品薄と関係がありそうなキーワードは発見できなかった。

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新田 尭之
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 新田 尭之