新型コロナウイルス収束後の世の中

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2020年03月19日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

3か月前の本欄(※1)で、病気の予防について述べた。一言でいえば、生活の質を下げず、生涯所得を増やすのが予防の目的である。ただ、そこで述べた予防とは、もっぱら生活習慣病(糖尿病や循環器疾患など)に関してである。いうまでもなく、今、差し迫った課題は、新型コロナウイルスによる肺炎の伝播を食い止めることであり、一人ひとりがそれに感染しないようにすることだ。

先進国の疾病構造が感染症から生活習慣病に変化して久しいが、より長いスパンでみれば疫病と戦ってきたのが人類の歴史である。日本でも少し遡れば、乳幼児ははしかで、子供は天然痘で、若者は結核で、中年はインフルエンザでもコレラでも命を落としてきた。現在は多くの人が天寿をまっとうできるようになったが、新型肺炎問題は忘れかけていた感染症対策の重要性を改めて突き付けている。

もっとも、個々人が有事の予防としてできることは平時と変わらない。うがい・手洗い、換気の励行、咳エチケットの徹底などである。また、バランスのとれた食事や適度な運動、十分な睡眠やストレスをためすぎないことも、病原体に立ち向かうには重要だときく。新型肺炎の重篤性が繰り返し報道されることで、それらに人々はまじめに取り組んでいる。

マスクや消毒液が店頭から蒸発する狂騒は何とかしなければならないが、不要不急の外出は控えられている。あらゆる場所で感染予防を意識した対応がとられ、経済的損失を覚悟の上で多くのイベント開催が自粛されている。人口当たり死亡者数割合が諸外国よりもだいぶ低いことは、日本の社会全体が事態に相当うまく対処できていることを示している(検査状況がまちまちゆえ、現時点で感染者数対比の致死率では国際比較できない)。

これほどの努力が払われ、国民の所得が大きく失われている(巨額のコストをかけている)以上、足元の課題への受身的な対応にとどまり世の中が元に戻るだけでは不十分である。事態収束に伴っては、グローバル化がいっそう進む下での公衆衛生対策とその運用について、国や自治体に格段のレベルアップを求めたい。また、なかなか広まらないテレワークや遠隔診療、かかりつけ医の機能強化といったことも、本格的に推進すべきである。

停滞しているモノやサービスの需要はいずれ急速に回復すると予想されるから、政府の対策はそれを受け止める経済の供給力の保持を主眼としなければならない。一時的な失職など、新型コロナウイルスが原因で困難な状況に追い込まれた労働者への思い切った支援が特に必要だろう。その際、その実効性をあげるために、マイナンバーカードの所持促進と組み合わせることを検討してはどうか。

小中高の一斉休校要請は唐突だったが、家庭・地域・職場それぞれの対応力も問われている。新型肺炎というショックを機に、フレックスタイム制・在宅勤務・時差通勤を普及させ、長時間労働をしないと成果が出ないと思い込んでいた職場が知恵を絞るようになれば、生産性向上が期待できる。困ったときの地域での支え合いを再構築し、夫婦の間で時代遅れの役割分担意識を変えることができれば、社会のレジリエンスは大いに高まるはずだ。

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鈴木 準
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