東日本大震災から学ぶ新型コロナへの対応

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2020年03月09日

  • 鈴木 雄大郎

3月14日(土)、東日本大震災の影響により運転を見合わせていたJR常磐線の富岡駅~浪江駅間での運転が再開される。震災発生から9年、常磐線は全線で運転を再開することとなる。福島県は東日本大震災、さらには世界でも類を見ない原子力災害からの復興の道を着実に歩んでいる。

しかしながら福島県の強みの一つである第一次産業は、未だに原子力災害による風評被害に苦しんでいるところもある。図表は福島県の主要な農産品価格の推移を示したものである。震災発生前は桃、米、肉用牛(和牛)、いずれも全国平均価格とほとんど差はなかったが、震災が発生した2011年の価格を見ると、とりわけ、桃や肉用牛において福島県産の価格の低下幅が大きい。そして、2019年の価格も震災前と比べると価格差は広がったままである。

消費者庁の「風評被害に関する消費者意識の実態調査」(第12回、2019年2月)でも、未だに「福島県産品の購入をためらう」と回答した人の割合は12.5%にのぼる。2015年以降、山菜や魚類を除けば、全ての農産品において、放射性物質モニタリング検査の基準値(100 Bq/kg)超過数はゼロであり、野菜や畜産物に至っては検出下限未満(概ね5~10 Bq/kg)が9割以上を占める(出所:福島県ウェブサイト)。安全とされているにもかかわらず価格が戻らないのは、風評によって一定程度購入をためらう人がいることが要因として挙げられる。

また、同調査によると、健康影響が確認できないほどの小さな低線量のリスクの受け止め方について、17.0%の人が、「基準値以内であっても少しでもリスクが高まる可能性があり、受け入れられない」、29.8%が「十分な情報がないため、リスクを考えられない」と回答している。福島県はモニタリング検査について毎月、詳細な情報を発信しているが、こうした情報が消費者の下まで十分に届いていない可能性がある。

実際、そもそも基準値がどの程度で、それがどのような根拠を基に設定されたものなのか、などの前提条件を知っている人は多くないのではないだろうか。いくら基準値以下ということを公表しても、そもそもの基準に対して不信感があれば、詳細な検査結果は意味をなさないだろう。

また、事故から9年たった今も不安を抱いている人が一定層存在するのは、事故直後に「直ちに健康への影響はない」というあいまいな表現で発表したことや、米の安全宣言をした後に、モニタリング検査の基準値を大幅に引き下げたことなど、当時の行政のちぐはぐな対応から生まれた不信感が固定化されていることも考えられる。

一度失った信用を取り戻すことは容易ではないが、そのためには粘り強く情報発信していく他ないだろう。加えて、当時の行政の対応に関する経緯などを今一度整理し、丁寧に説明することも求められよう。

最近の新型コロナウイルスに対する行政の対応についても、こうした震災の時から学べることがあるのではないか。現在、政府はイベント開催の自粛要請やテレワーク・時差出勤の推進、全国一斉の休校要請など様々な対策を打っているが、国民の不安を払拭するためには、こうした要請に至った経緯を含め、粘り強く丁寧な説明をしていくことが求められよう。

本コラムは福島震災復興視察報告の第2弾である。第1弾(2019年12月17日)(※1)と合わせてご覧いただきたい。

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