新型肺炎の影響を大きく受ける地域とは?
2020年02月17日
中国で発生した新型肺炎の感染が拡大している。新型肺炎による日本経済への影響が懸念される中、悪影響が既に顕在化しているのがインバウンドである。中国政府は新型肺炎のさらなる感染拡大を防ぐため、全国民を対象に国内・海外への団体旅行を禁止するなど厳しい措置を講じた。大和総研では、仮に訪日中国人が100万人減少すると、波及効果を含めて、日本のGDPは2,500億円程度押し下げられると試算している(※1)。もっとも、経済への影響の度合いは地域によって大きく異なる。
観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、訪日中国人宿泊者数が多いのは東京や大阪である。だが、外国人宿泊者に占める中国人の割合を地域別に見ると、静岡(2018年:65%)、奈良(55%)、愛知(49%)、山梨(42%)、千葉(38%)、三重(35%)、岐阜(35%)などで大きく、観光業などへの悪影響が懸念される。一方、宮崎(5%)、大分(9%)、鳥取(9%)、広島(9%)、石川(10%)などは、外国人宿泊者に占める中国人の割合が小さく、他の地域に比べると影響は限定的だろう。
クルーズ旅客数の減少による影響も地域によって異なる。国土交通省港湾局によると、2019年の訪日クルーズ旅客数は215万人で、このうち最も多いのが中国発の174万人であった。クルーズ船の寄港地を見ると、那覇(2019年:260回)、博多(229回)、横浜(188回)、長崎(183回)、石垣(148回)などに多く寄港している。クルーズ旅客の減少が宿泊・飲食関連業種に与える悪影響は小さいものの、百貨店やドラッグストアといった小売業では大きいと考えられる。そのため沖縄、福岡、神奈川、長崎ではそうした影響にも留意する必要があろう。
新型肺炎による日本経済への影響はインバウンドにとどまらない。中国の景気減速が日本の中国向け輸出を減少させたり、サプライチェーンの混乱で日本企業の生産活動が停滞したりすることが挙げられる。さらに、他国の経済活動が停滞することで、中国以外への輸出が減少するといった間接的な影響も十分に想定される。
新型肺炎の感染終息が長引けば、日本経済や地域経済に与えるマイナスの影響もその分だけ大きくなる。早期の終息を祈りつつ、引き続き動向を注視していきたい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
経済調査部
エコノミスト 山口 茜
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日