第3号被保険者制度は時代に合わない?

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2020年01月06日

結婚や出産の後も働く女性が一般的になり、また、晩婚化や未婚率の上昇などが示すように、女性のライフスタイルは多様化してきた。夫婦共働き世帯、単身世帯が増えるなど、社会構造が変化する中、いまだ片働き世帯(専業主婦世帯)をモデルとしているのが年金制度だ。年金の財政検証で公表される所得代替率は「夫と専業主婦という世帯」について示されているが、もはやそれをモデル年金と考えることには無理がある。事実上、専業主婦が対象となっている第3号被保険者制度も、時代に合わない制度と言えるかもしれない。

第3号被保険者制度は1985年に創設された。民間サラリーマンや公務員に扶養される専業主婦は、第3号被保険者として国民年金へ加入するが、直接の保険料負担はなく、年金給付のために必要な財源は、その配偶者が加入している厚生年金から支払われる。制度創設前も、専業主婦は国民年金へ加入できたが、任意だったため、加入しているか否かで老後の年金額に格差が生じていた。また、任意加入していない場合は、障害年金を受給できず、離婚した時に年金がないという問題もあった。夫が働き、妻が家庭を守るという考え方が一般的であった時代に、稼得所得を得られない専業主婦の年金権の確保が、制度創設の目的であった。

だが、女性のライフスタイルの変化とともに、第3号被保険者制度については、制度の廃止や見直しが議論されてきた。専業主婦と、共働き世帯や単身世帯の女性と間で、保険料負担と年金給付の違いに不公平感が生じるようになってきたことなどが背景にある。また、パート労働の専業主婦には保険料の負担を嫌って、一定の収入を超えないように労働時間を調整する人がいる。いわゆる「130万円(適用拡大実施企業に勤務している場合106万円)の壁」が女性の就労を妨げているとの指摘は多い。

実際には、厚生年金の適用拡大によりパート労働の専業主婦を厚生年金に適用し、第3号被保険者数を減少させることで、制度の縮小が図られている。また、男性と同じように働く女性を社会全体で増やしていけば、結果的に第3号被保険者制度はマイナーなものとなっていく。制度自体をただちに廃止すべきという意見もあろうが、今の進め方は現実的である。

パート労働の専業主婦に対する厚生年金への適用拡大が進められてきたことで、実際に第3号被保険者数は減少している。厚生年金に加入した個人は、将来の年金額が、基礎年金に上乗せされる報酬比例年金分だけ増える。また、全体としてみれば厚生年金加入者数の増加は、社会保障の支え手を拡大することでもある。就労時間の調整の必要性が低下すれば労働供給が増え、日本経済にとってもプラスである。時代に合わない制度だからといって第3号被保険者制度をただちに廃止してしまえば、家事や育児、介護などの負担が大きい、あるいは自身の病気やケガなどで、希望していても働けない事情を抱える人の年金権が奪われかねない。

引き続き、家事や育児、介護の必要性などから就業を諦めている人や、就労時間調整をしている専業主婦を減らせるよう、安心して子どもを預けられる保育施設の増設や介護の受け皿整備が求められる。また、企業が多様な働き方を提供しやすくするなど、年金以外の制度整備を合わせて進める必要もある。第3号被保険者制度には、働きたいけれども働けない人や子育てに専念したい人など、多様なライフスタイルに対応する役割もあるのではないか。

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 佐川 あぐり