質の良い赤字ってなんだ!?
2019年11月26日
「『質のよい赤字は上場を認める』という世界をどうつくるのか」。これは、東京証券取引所(東証)の再編を議論している金融審議会「市場構造専門グループ」で学識経験者からなされた発言である。その趣旨は、日本経済の発展に向けて企業のイノベーションを促進させるために、赤字企業は上場が困難という状況から、赤字であってもその質が高ければ上場が認められるように変えていくべきということである。
同じ審議会では、新興企業の経営者からも赤字の質をきちんと評価できる上場制度が必要という趣旨の発言があった。IT系企業は先行投資型が多いとされ、米国では赤字での上場が新規上場の81%(2018年)に及ぶ(第1回「市場構造専門グループ」での東証提出資料による)。日本でも、2018年にスマホ向けのフリマアプリを提供する企業が先行投資を要因として赤字上場した。
赤字上場ではないとしても、日本のIT系企業を見ると、最近は上場してから戦略的に一定の投資期間を設け、その期間は赤字になることを許容し、その後、投資成果を享受するという企業も見られる。いわば、飛躍するためにいったんしゃがんで、そこから高くジャンプするというスタイルである。ただ、投資期間中は株価が投資前よりも低く推移し、投資成果の享受段階で株価が大きく上昇することがある。市場参加者にとって、投資による赤字についての判断はなかなか難しいということであろう。
では、赤字の質はどのように判断するべきなのか。業種やビジネスによっても投資に要する費用や形態が異なるため、その判断に違いは出るだろう。例えば、製造業が工場を作った場合、その投資金額は一度に費用計上されず、収益と費用を対応させるために減価償却費という形で耐用年数に応じて計上される。一方で、IT系企業では製造業のような投資は少なく、成長に向けた投資として人件費、広告宣伝費などに多くの資金を投入することがしばしば見られる。これらは発生時に全て費用として計上することが求められるため、製造業の工場の場合とは損益計算書に与える影響が異なる(もちろん、製造業も人的な投資のために資金を投入すれば、発生時に費用計上される)。
このような違いを考慮しつつ、赤字の質を判断するための一つの基準は、投資によってキャッシュ創出力が向上するかどうかであろう。ただ、赤字での上場時や上場後の投資期間中にその判断をするのは投資家にとって簡単な作業ではない。企業は投資に向けた資金の調達方法、資金使途(配分)、事業計画などを丁寧に説明し、企業業績の見通しを示していく必要がある。
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