フィンテック企業の銀行ビジネス参入を阻む連邦と州の争い
2019年11月25日
2019年10月にニューヨーク州連邦地方裁判所が下した最終判決が注目された。連邦レベルの国法銀行免許を付与する当局である通貨監督庁(OCC)に対し、フィンテック企業への銀行免許の付与を認めないとする判決である。
フィンテック企業への免許は、特別目的国法銀行(special purpose national bank:SPNB)免許と呼ばれ、同庁が2018年7月に新たに申請の受付を開始していた。フィンテック企業に対して貸付と送金に関わる業務のみを認める(預金業務は除く)免許である。米国には二元銀行制度(Dual Banking System)の下、国法銀行免許と各州の銀行免許がある。フィンテック企業はSPNB免許の創設を歓迎していた。なぜなら規制負担が軽減されたSPNB免許さえ取得すれば、各州の免許を取得することなく全米での業務が可能となるからだ。
今回の裁判でOCCに対して訴訟を提起したのはニューヨーク州金融当局で、SPNB免許はOCCが国法銀行法により与えられた権限を逸脱し、州に属する権限を奪うなどと主張していた。判決では、一定の例外を除けば、OCCは預金を取扱う銀行にのみ国法銀行免許を与えることができるなどとして、ニューヨーク州金融当局を支持した。この判決はニューヨーク州だけではなく全米で効力を有する。
今回の判決に対しては、銀行ビジネスへの参入を検討しているフィンテック企業やテクノロジー企業に打撃を与えるものであるとの意見が多い。しかし、判決により、これらの企業が銀行ビジネスに参入できなくなったわけではない。
例えば、大手テクノロジー企業やフィンテック企業が連邦や州の免許を取得せず、既存の銀行と提携するという方法がある。アップルがゴールドマン・サックスと提携しクレジットカードを発行する例など、このケースが足元では多く見られる。もちろん、フィンテック企業は従来通り、いわゆるフルライセンスと呼ばれる通常の国法銀行免許を取得して銀行になることも可能だ。ただしこの場合、国法銀行法の対象になり厳格な法律や規制が適用される。
OCCは既に上訴しており、引き続き連邦と州の対立が続く。OCCのSPNB免許導入の理念の一つは、フィンテック企業を銀行に含めることで、国法銀行同様にOCCの統一した監視下に置き、連邦法の下で一貫して顧客を保護することである。この理念を実現させ、同時に米国が積極的にフィンテック企業やテクノロジー企業の銀行ビジネスへの参入を促進させたいのであれば、OCC単独の取組みではなく、より効力の強い議会による法制定が必要になるものと思われる。
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金融調査部
金融調査部長 鳥毛 拓馬
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