片道車で2時間以上は遠いのか、近いのか

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2019年11月20日

  • コンサルティング第二部 主任コンサルタント 増田 幹郎

季節の良いこの時期、我が家では「テーマパークへ連れて行け」との声があがることがある。なかなか合わない各自のスケジュールがたまたまぴったり合う週末などは特に。

「あそこは遠い。渋滞すれば片道2時間以上は掛かるから。運転手は往復の車内で眠れないし、長時間運転が厳しいな」などと理由を挙げて何度かは丁重にお断り申し上げていたが、今回は思わぬ反論。年間パスポートの代金を3か月足らずで“元を取った”というご近所さんのコメントが用意されていた。

『車で行けるんだから近いわよぉ!近い!アメリカに居た時は4,000km離れたところに住んでいたんだから!!』

片道4,000km!?その反動が日本で出て3か月足らずで元を取ったのか・・・?それにしてもやはりあの国のスケールは違うな・・・。などと思いつつ、「遠い」という感覚がいかに主観的なものであるかを改めて認識した。

同じ距離なのに、ある人は「遠い」と言い、またある人は「近い」と言う。置かれた環境やそれまでの経験等により、人の判断や評価は全く異なる可能性がある。似たような話を企業の人事評価の場でも時折耳にする。

入社年次が同じで等級も同じ、同じような業務を行い成果にもほぼ差がない二人の社員の間でも部署が異なり(例えば営業1課と同2課)、評価者が異なると評価結果に大きな差がつくことがある。また、一人の社員で評価期間毎(例えば、上期と下期)の成果や実績がほぼ変わらなかった場合でも、評価者が異動等で変わると評価も変わることがある。□□課長の評価は厳しい、△△部長の評価は甘いからあの部署の人は昇格しやすい、といった話はどの企業でもよく聞かれる。

しかし、テーマパークまでの距離感と違い、人事評価の結果に大きな差が生じることは好ましくない。評価結果は報酬額や昇進・昇格に直結するものであり、場合によっては被評価者の人生を大きく変えてしまう可能性もある。評価結果への不満を溜め込んだ被評価者が退職すれば、企業にとってもマイナスになることもある。

評価者によるその評価結果の差を少しでも抑制するために存在しているのが評価基準である。評価の目安や視点、例などが記載され、評価者はそれに照らして被評価者の行動や成果を見て評価をしているのだが、評価者により大きな評価結果の差が生じることもある。それはテーマパークへの距離感と同様に、同じ基準を見ても見る人により解釈が異なる場合があるからだ。そもそもあらゆる視点や例を全て基準に記載しきれるものではない。

「車で2時間以上」、「乗り換えは3回」、「飛行機に乗る」。

細かく詳細な例は幾つあっても、見る側に共通のイメージが浮かばなければ評価の基準としては意味が無い。いずれも遠そうなイメージであるが見る人の居場所により捉え方は異なる可能性があり、距離の明瞭さでは「片道4,000km以上」には“遠く”及ばない。でも、人事評価の基準は数字で明瞭に表記できるものばかりでもない。

それならば、細かく詳細な例を山ほど挙げるよりも、(社内および評価者の)誰もが共通のイメージを持てる大枠のほうを明確に設定して周知・意識させておくのはどうだろう。その枠内に当てはまるものを評価者各自が被評価者から見出す(探し出す)ほうが、結果のズレは小さいのではないだろうか。

今後は「車だと片道2時間以上は掛かる」との言い方はやめて、「家から千葉県浦安市までは遠い」という基準のほうを周知・意識させる努力をしよう。そうすれば、大阪市此花区までは自ずと「もっと遠い」と分かってくれるはずだ。

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