株式保有のきっかけになる、地元企業のエクイティファイナンス

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2019年11月06日

「貯蓄から投資へ」もしくは「貯蓄から資産形成へ」というスローガンが長年掲げられているが、日本証券業協会が実施している「証券投資に関する全国調査 平成30年度調査報告書(個人調査)」によれば、株式を「現在持っている」もしくは「以前持っていたが、現在は持っていない」と回答した割合(株式保有経験者比率)は全体の約2割にとどまり、残りの約8割は株式を「これまでに持ったことがない」と回答した。株式保有経験者比率を年収別・年齢別・地域別に見ると、①年収が多いほど高い、②(ある程度までは)年齢が上昇するほど高い、③京浜・東海・近畿・阪神・関東といった大都市を擁するエリアの方が高い、といった大まかな傾向が確認できる。

①・②に関しては、一般的に50代くらいまでは年齢が上がるほど平均的な年収も上がることから、株式保有に伴う資産価格変動のリスクが許容しやすいことが予想され、株式保有経験者比率も高くなることが考えられる。③に関しても、大都市ほど仕事が得やすかったり、給与水準が高いことから、それが年収の差につながり、株式保有経験者比率に影響している可能性がありそうだ。

ただし、③について地域ごとに見ていくと、その地域に本社がある企業の公募増資・株式売出し額(IPOを含む、以下、エクイティファイナンス)が多いほど、株式保有経験者の比率も高くなる傾向が確認できた(図表)。地元にある上場企業がエクイティファイナンスを行うと、その企業を応援しようと、株式を保有する個人が増えるのかもしれない。

前掲の日証協の調査では、株式保有の経験がないと回答した人に、株式を購入しなかった理由も尋ねている。最も多い回答は「株式に興味がない」で、全体の約6割を占めた。株式保有経験者を増やすには、株式に興味を持つきっかけ作りが必要なようだ。地元企業のエクイティファイナンスはそのきっかけとして機能している可能性もありそうだ。

東京証券取引所のデータベースを確認したところ、上場企業の本社は半分以上が東京都であった(本稿執筆時点)。これに大阪府、愛知県、神奈川県、兵庫県を加えると、全体の約8割に達する。これらの都道府県に限らず、各地域で企業が株式市場を通じて資金を調達していけば、各地域における個人の株式保有も増えていくかもしれない。

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太田 珠美
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 太田 珠美