中国:必要に駆られた対外開放

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2019年11月05日

  • 経済調査部 研究員 中田 理惠

中国は現在、海外からの投資に対し規制緩和を進めている。2019年7月には金融分野への外資参入に関する規制緩和の実施計画を前倒しする方針が表明された。こうした動きは米中貿易摩擦問題を受けて米国への配慮を示した側面もあるが、対外開放は中国にとっても必要な方針であると言える。中国の国際収支動向を見るとその背景が見て取れる。

これまで中国は巨額の貿易黒字により経常収支の黒字を維持してきた。しかしながら、中国国民による海外渡航増加により渡航先での支払いが増えたこと等を受けてサービス収支の赤字が拡大し、経常収支の黒字幅は縮小しつつある。2018年1-3月期には2001年4-6月期以来の経常収支赤字を記録した。今後も世界経済の減速や米中貿易摩擦問題の影響から、貿易収支ひいては経常収支が悪化する可能性があり、これを補うためにも対外開放を進めて海外からの資金を取り込むことが必要となっている。

ここで一つ疑問が浮上する。経常収支は貿易・サービス収支、第一次所得収支(対外資産・負債から生じる収益の収支、及び雇用者報酬の収支)、第二次所得収支(海外からの無償援助など)で構成される。日本は貿易収支が赤字となる局面においても、巨額の対外資産から得られる第一次所得収支により経常収支の黒字を維持してきた。一方、中国は巨額の対外資産を有し世界3位の純債権国であるが、第一次所得収支はむしろ支払超過であり、経常収支の下押し要因になっている。これは中国が有している対外資産から得られる投資の収益率が、海外が中国へ投資した資産(以下、対内資産)から受け取る投資の収益率を下回っているためである。中国が対外資産から得ている収益率は年3%程度であり、日本の対外投資収益率と大差はない。しかしながら、中国が海外へ支払う対内資産に対するコストは5%台と受取り分を上回っている(なお、日本の場合、対内資産に支払うコストは1%台である)。自国の成長率の高さと新興国としてのリスクプレミアムの高さが、対内資産に対して支払うコストが高い背景にある。これにより純債権国であるにもかかわらず第一次所得収支はマイナスとなっている。

このギャップを埋めるために対外投資の運用先をより収益率の高い直接投資等に変えて収益率を上げることも選択肢の一つだが現状では考えにくい。中国の対外資産は4割以上が外貨準備となっており、収益率は低いものの流動性が高く安定した収益を得られる国債を中心に運用されている。特に人民元安への不安がある中では、運用において収益率の高さよりも流動性が優先されよう。加えて、資本逃避への警戒から直接投資を含めて対外投資は制限されている状況にある。

こうした現状から国際収支の均衡を保つためにも、中国は当面のあいだ国内への投資を促す政策を続けていくとみられる。しかし、いずれ国際競争力の低下とともに貿易収支の黒字が縮小していくとすれは、対外資産からの収益により黒字を確保していく必要が出てくる可能性がある。その場合、中国には対外資産の収益率を上げるとともに、対内投資に対して支払うリスクプレミアムを下げていく努力が求められよう。

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