元気シニアの活躍だけでは不十分な全世代型社会保障

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2019年10月21日

2040年を見据えた全世代対応型の社会保障に向けた議論が始まっている。全世代対応型社会保障では、年金・医療・介護・子育てなどの機能強化と制度の持続可能性の確保とが重視された社会保障・税一体改革をさらに進め、現役世代の急減に対応するため、労働の分野にも重点が置かれる。

具体的には、中途採用・経験者採用の促進や兼業・副業できる環境整備に加え、70歳までの就業機会の確保等、多様な就業機会の提供について検討される見込みである。これは、年齢にかかわらず就労継続が可能な環境を整備することで社会保障の支え手を増やし、制度の持続可能性をより高めることを目指すということでもある。

希望する高齢者が長く働き続ける上で不可欠とされるのが、予防・健康づくりに重点を置いた政策の推進である。人生100年時代の安心の基盤は健康であり、元気に働く高齢者の増加は、社会保障の支え手を増やすことにつながるだけでなく、高齢者自身の生活の質を向上させることにもなる。

対象は高齢者に限らないが、介護予防・健康づくりについては、今年5月に厚生労働省が「健康寿命延伸プラン」をとりまとめている。このプランでは生活習慣病予防等の従来の取り組みに加え、「健康無関心層も含めた予防・健康づくりの推進」や「自然に健康になれる環境づくり」、「行動変容を促す仕掛け」など、新たな手法の活用が示されている。

例えば、SNSやゲームアプリを通じた健康無(低)関心層への啓発や、保険者に対するインセンティブ措置の強化による通いの場(※1)の拡充、また、ナッジ(※2)を活用した健診・検診受診の勧奨などが計画に挙がる。これらを通じて、2040年までに健康寿命を男女ともに3年以上延伸し(2016年比)、75歳以上とすることを目指す。より長く元気に活躍するシニアの増加が期待できよう。

高齢化と現役世代の減少が進展する中でも社会の活力を維持、向上しつつ全世代型社会保障を実現していくためには、希望する高齢者が元気に働き続けることが重要であり、それには予防・健康づくりが前提となる。だが、それと同時に、制度の持続性確保に向けた負担と給付の見直しをすみやかに進めることも、全世代対応型社会保障の眼目であるはずだ。

現役世代の年金・医療・介護を合わせた社会保険料の収入に対する負担割合は2022年度にも30%(労使合計)を超えるとの推計もあり(※3)、その先まで見通すと可処分所得の伸びが著しく抑制されてしまう恐れがある。増大する引退世代向けの給付を賄うために現役世代の負担を際限なく増やすことは難しく、後期高齢者の患者窓口負担の引き上げ(原則1割→2割)や、介護サービスの利用者負担の引き上げ(原則1割→2割)など、給付と負担のバランスに関する議論が欠かせない。全ての世代が安心できる全世代型社会保障を実現するには、元気シニアの活躍の後押しだけでなく、現役世代や将来世代にも配慮した改革が求められよう。

(※1)地域住民主体の介護予防の場で、主に運動機能向上のための体操や茶話会、趣味活動などが行われている。
(※2)行動経済学の「ナッジ(nudge)理論」。対象者に選択の余地を残しながらも、より良い方向に誘導する手法。
(※3)健康保険組合連合会「今、必要な医療保険の重点施策—2022年危機に向けた健保連の提案—」(2019年9月9日)

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 石橋 未来