副業・兼業は日本で根付くか
2019年10月16日
先日、国が70歳までの雇用延長を検討というニュースが話題になったが、働き方については、年齢(期間)だけでなく仕事の種類(数)についても動きが見られる。本業以外に仕事を行う副業・兼業について、ここにきて、大手企業が次々と解禁を発表するなど、本格的に副業・兼業が認められつつあるのである。
この動きは、国が積極的に副業・兼業の普及を促進してきたことと無関係ではないであろう。例えば、昨年1月には、厚生労働省が、副業・兼業について企業や働き手が現行法令のもとで、どういう事項に留意すべきかをまとめたガイドライン「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成。モデル就業規則を改定し、労働者の遵守事項の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という規制を削除し、副業・兼業について規定を新設した。また中小企業庁も、2017年に副業・兼業を通じた創業・新事業創出に関する提言を行っている。企業側としては、優秀な人材の獲得、副業を通じた社員のスキル向上やビジネスへの貢献などの理由から、解禁に踏み切っているのであろう。
一方、実際に副業・兼業を行っている人は、非正規の職員・従業員で5.9%、正規の職員・従業員で2.0%(2017年)という現状。追加就業希望者の比率は、非正規8.5%、正規5.4%で、5年前と比較して増加傾向にあるものの多くはない(総務省「平成29年就業構造基本調査」)。今後、2割、3割といった本格的な普及は進むのであろうか。
従来の副業・兼業というと、家業の手伝い(自営業、農業等)や夜の短時間のパート、芸術系の副業(作家、歌手、ミュージシャン)などがイメージされるが、これらとは異なり、「普通の人が普通にできる」副業・兼業の仕事が増えることが普及の鍵ではないか。米国では、インターネットの普及とともに、本業として雇用労働に従事しつつ、副業として個人請負労働に従事する労働者が増えており、その比率は30%超(2015年)との推計もある(※1)。企業がネット上で短期間の業務の募集を行い、隙間時間を使った仕事を希望する労働者が応募する形のマッチングサイトが浸透してきたことが背景にあるのだろう。
日本でもいわゆるクラウドソーシングのサイトは増えてきており、このようなマッチングの仕組みが企業側、労働者側に活用されることにより、普通の人が普通に複数の仕事をしている時代が実現する可能性はある。特に、地方企業や中小企業は、副業・兼業用の仕事を積極的に供給することにより、適正な労働力の再配分が促進され、人手不足の解消にもつながるだろう。
従業員にとっても、多様な価値観に基づく自己表現を目指すことができる等、今後「働き方改革」を考える上で、大切な取り組みの一つになっていくのではないだろうか。
(※1)「諸外国における副業・兼業の実態調査—イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ—」、2018年、独立行政法人労働政策研究・研修機構
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コーポレート・アドバイザリー部
主任コンサルタント 宮内 久美
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