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年金に関する2種類のモノサシ

2019年09月27日

リサーチ本部 執行役員 リサーチ担当 兼 政策調査部長 鈴木 準

5年に1度の公的年金に関する財政検証の結果が、8月下旬に公表された。経済前提が楽観的だという批判があるが、現在の給付財源を現在の現役層の賃金に求める賦課方式の下では、経済が明るければ現役層の生活水準を向上させながら年金も潤沢にできるが、経済が暗ければ両者とも低迷せざるを得ない。その際、現役層と年金受給者のバランスは経済の振れ幅ほど広がるわけではなく、経済前提は皆で豊かになるか皆で貧しくなるかという違いにすぎない。

現役層と年金受給者のバランスは、所得代替率という指標で測定されている。具体的には、「夫が平均賃金で40年間働いたサラリーマンであり、妻が40年間専業主婦である場合の夫婦合計の年金額」の「現役世代男子の平均手取り収入額」に対する比率で見ようということになっている。これが次回の財政検証までに50%を下回ると見込まれる場合には、年金制度を抜本的に見直す旨が法律に規定されている。

2019年度の所得代替率は61.7%で、前回や前々回の財政検証時も60%を上回っていた。今回の財政検証では、マクロ経済スライドによる給付抑制を進めても将来にわたり50%以上をなんとか維持できる公算がそれなりにあり、約25年後に代替率が50%に達してしまう確率もある程度はあると示された。はたして、わずか5年後に50%を下回るかどうかという基準に意味はあるのだろうか。

しかも、この所得代替率は、①現役層の賃金が下がると上昇し、年金水準が改善したように見えてしまう、②「昭和」を思わせる今や特殊な世帯タイプを指標にしている、③新規裁定時(受給開始時)の代替率にすぎない、④計算式の分母と分子が人数や所得の概念上でいかにも不整合であるなど、率直に言って扱いが相当に難しい。筆者はかねてより、50%にこだわるのを改めるべきことを含め、代替率だけでなく年金の実額見通しにも注目すべきと述べてきた。

この点、今回の財政検証では、モデル年金額は経済成長が進むケースでは今よりも増加し、経済成長があまり進まないケースでも横ばいないし微減であることが強調された。これは、物価上昇分を割り引いた年金の実質購買力についてのことである。ただ今度は、60%超の代替率が50%になるということは約2割の水準低下であるため、いったい年金は増えるのか減るのか、2種類のモノサシがあるのはおかしいという見方が出てきたようだ。

だが、代替率も実額も同じ事象を捉えた数値であり、完全に整合的である。年金の実質額が増える(もしくはさほど減らない)ことは、前回や前々回の財政検証でも示されていた。年金を見通して老後のプランを立てるには、代替率の多少の高低より年金でどれだけのモノやサービスを買えるのかが重要だ。同時に、超高齢社会の中で制度を持続させるには、現役層の生活水準の上昇速度との対比で年金受給者のそれを抑制していくことも不可避である。代替率と実額の関係を、できるだけ多くの人々が矛盾させずに理解できるようにすることも年金改革の一つであるだろう。

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鈴木 準

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