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英国:子どもの貧困撲滅のキーワードは「学校」

2019年09月24日

経済調査部 研究員 矢澤 朋子

英国は「子どもの貧困」撲滅に的を絞った施策を実施し、特に09年以降子どもの相対的貧困率(※1)が大きく低下した。子どもを養育する親に就業を促す雇用対策や就労を要件とした給付制度が奏功したが(※2)、それ以外で貧困を含む不利な状況にいる子どもに対する支援を紹介したい。キーワードは「学校」である。

まず、イングランド地方の公立学校向けには「児童特別給付」と呼ばれる補助金がある。親が失業している、低所得であるなどの理由で福祉給付を受給している児童が主な対象で、原則、対象児童1人につきプライマリースクール(日本の小学校に相当;5~11歳)で年間1,320ポンド(約17.8万円)、セカンダリースクール(中学・高校に相当;11~16歳)で935ポンド(約12.6万円)が学校に支給される(19~20年)(※3)。同給付は不利な状況にいる児童とそれ以外の児童の学習到達度の「格差」を縮小させることが目的で、その使途は学校に一任されている(※4)。具体的な取り組みには、経験の浅い教師の支援、教師の専門能力の向上、少人数や一対一での学習支援、出席日数の増加や適切な言動を促す働きかけ、社会的・精神的支援などがあり、中でも効果的とされるのは「教師の質(教える能力)の向上」である。特に10年以降の緊縮財政で教育予算が縮小され、多くの経験豊富な教師は給与減少や業務増加に耐えかねて職場を去っているため、教師の指導能力向上に対する投資が大きな効果を上げたと考えられる。

この給付は不利な状況にいる児童の学業成績はその他の児童より低い傾向があるという調査結果に基づいた支援であり、不利な状況にいる児童がいる「世帯」ではなく「学校」を通じた支援であることが特徴である。費用対効果が低い、金額が十分でないなどの指摘もあるが、英国教育省の報告(※5)によると、不利な状況にいる児童とそれ以外の児童との学力の差は明確に縮小している。

もう一つ取り上げたいのが、「チルドレンズセンター」である。チルドレンズセンターは不利な状況にいる子どもや家族と社会の橋渡し役を担っており、小学校の敷地内に併設されていたり、小学校関係者が運営に携わっていたりすることが多い。提供されるサービスは、就学前の子どものための保育、妊娠期から受けられる両親への保健サービス、言葉の問題や障碍への支援などに加え、外部(保育施設や学童保育、就労支援サービスなど)と連携した情報提供などがある。不利な状況にいるものの支援を得づらい家族(例えば、英語でコミュニケーションが取れない移民の家族)にとってはチルドレンズセンターに足を運ぶことで、受給可能な支援や申請方法などの情報を得たり、就業や求職のために保育サービスを受けたりするなど、社会的孤立や貧困から抜け出す助けとなっている。

日本でも、表面化しづらいが次世代の貧困につながる問題として、子どもの貧困への関心が高まっている。ただし、日本が子どもの貧困対策に本格的に乗り出したのは、13年6月に子どもの貧困対策推進法、19年6月に同改正法が成立してからである。特に、貧困下にいる子どもとそれ以外の子どもの「格差」縮小に焦点を当てた教育施策や多様な問題を抱える貧困世帯の相談を一手に引き受ける窓口の設置はまだ緒に就いたばかりで、今後の本格的な展開が期待される。児童特別給付やチルドレンズセンターのような「学校」を中心とした子どもの貧困対策は、日本にとっても参考となるであろう。

(※1)「社会保障移転後の等価可処分所得が全国中央値の60%」を貧困ラインとし、その貧困ライン未満にある者の全人口に占める割合。

(※3)2019年9月13日の134.74円/ポンドで換算。
(※4)ただし、学校はその使途や教育到達度の変化、効果などを示した報告書を定期的に公表し、教育水準局からの査察を受けるなどの義務を負う。
(※5)出所:“Revised GCSE and equivalent results in England: 2016 to 2017”、英国教育省

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