英国でなぜ「子どもの貧困」が改善したのか

子どもを扶養する親の就労促進及び就労と紐づけた給付制度が奏功

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2019年09月11日

  • 矢澤 朋子

サマリー

◆EUは成長戦略の中で貧困撲滅を目標の一つとして掲げているが、子どもの貧困に限るとEU主要6カ国の中で英国が過去十年で唯一改善している。本稿では、国の経済や社会に対する将来的な悪影響が大きく、その影響も多岐にわたる子どもの貧困に焦点を当てた英国の政策を取り上げる。

◆17年の英国の子どもの相対的貧困率は21.3%で、子どもの約5人に1人が相対的貧困状態にいることになる。英国では、①ひとり親世帯、②両親の教育水準が低い、③外国生まれの親を持つ場合、子どもの相対的貧困率がその他と比べて高いという特徴が見られる。

◆英国政府は、子どもの貧困の撲滅、さらに貧困の連鎖の断絶のためには、扶養者が就業し収入を得ることが重要であるとし、親の就業支援、就業を促進するための育児支援、所得保障などを組み合わせた施策を講じてきた。ひとり親世帯、移民、教育水準が低い者の就業率はいずれも上昇しており、施策の成果が出ていると言えるだろう。

◆もっとも、13年以降は子どもの相対的貧困率は緩やかな上昇傾向にある。ワーキングプアの増加や政府の家族・子ども関連支出の削減などがマイナスの影響を与えていると考えられよう。その他課題として、保育サービス費用の負担が重いことが挙げられる。これまでの英国の経験に鑑みると、子どもの貧困は国の政策や財政の優先度に大きく左右されると言えよう。

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