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無料データで景気の早期把握は可能なのか

2019年09月02日

新田 尭之

景気を把握できるタイミングは早ければ早いほど望ましい。しかし、多くの経済指標は対象期間の終了後から公表まで1ヵ月~3ヵ月ほどのラグがある。そこで、近年では、速報性や公表頻度が高いビッグデータ、具体的にはPOSデータ(※1)やクレジットカードの決済データ、新聞記事、SNSの書き込み、位置情報などを用いて早期に景気動向を把握し、投資判断や政策立案に利用する動きが活発化している。

しかし、経済分野のビッグデータの多くは民間企業が保有する売上や取引等に関する私的な情報であり、一般的には商品やサービスとして有償で提供される。それ故、自組織内で大量のデータを保有するケース、例えば電子商取引や検索サービスなどを通じて大量のデータを蓄えているケースを除けば、これらを利用して景気分析を行うにはデータの購入を検討する必要があろう。しかし、購入にはかなりの出費を覚悟しなければならない。報道によれば、POSデータ等には数百万~数千万円、クレジットカード情報やスマートフォンの位置情報に至っては数千万~1億円以上もかかるようである(※2)。

それ故、ビッグデータを用いた経済分析の実現可能性は、自ら保有するデータ量や資金力に左右されやすくなってきている。ただ、そうした状況下でも、従来では経済分析にほとんど利用されなかった無料のビッグデータを用い、景気の早期把握に取り組んだ試み(※3)を紹介したい。

この取り組みで主に用いたデータは、東京電力や関西電力など全国10社の電力会社のウェブサイト上から「でんき予報」等の形で公表されている電力需要量である。これらのデータは速報性や公表頻度が高く、毎時レベルの細かい単位で取得できることに加え、ほぼリアルタイムで更新される。ただし、時系列で遡れる期間はデータの制約上、基本的には電力小売の全面自由化が開始した2016年4月以降のみにとどまる等の留意点もある。

もちろん、このデータをそのまま経済分析に利用することはできない。このデータは家庭用の電力需要量を含むこともあり、冷房・暖房の利用が盛んな夏季あるいは冬季に高まりやすい等の問題がある。このため、上記の取り組みでは、季節性に加え、気温、相対湿度、日照率を考慮した上で状態空間モデルと呼ばれる計量モデルを構築し、これを用いて日本全国および9地域の電力需要量データ(月次ベース)から景気との連動性が高いと考えられるトレンドを抽出した。

分析結果を見ると、多くのケースでトレンドと経済指標(日銀短観)の間に(強い)正の相関が観察できた。したがって、景気の早期把握に向けて電力需要量データを活用する有用性は一定程度存在すると思われる。そして、この方法に従う形で、直近、すなわち月次ベースでは2019年8月まで(※4)の電力需要量のトレンドの動きを算出したところ、日本全国の景気は2018年の夏ごろから足元まで右肩下がりが続いている可能性が示唆された。

ただし、(※3)レポートで用いたモデルには改善の余地は残されている。例えば、モデルの性質上、新たなデータが追加される場合、過去すべてのデータに若干ながら影響が及ぶ。また、働き方改革が奏功し、アウトプットの水準を落とさずに企業の消灯時間が早期化するケースなどでは、電力需要量と景気との連動性が薄れてしまうだろう。加えて、既述の通り、データの制約上、分析期間は2016年4月以降と比較的短期間である。このため、データの更なる蓄積を待ち、改めて上記の改善点等を考慮した検証を実施することが望まれよう。

(※1)商品名・販売時点・価格・数量などの情報を含んでおり、小売業などで集計・分析に活用されている。

(※3)新田尭之「オルタナティブデータによる地域景気の早期把握」(大和総研レポート、2019年8月6日)
(※4)2019年8月に関しては、8月1日~26日の平均値を8月全体のデータと仮定した。

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