認知症予防の商品やサービス、私に合うのはどれ?

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2019年07月23日

フィットネスクラブに通うなど、健康づくりに意欲的な高齢者が増えている。60歳代の世帯のフィットネスクラブなどのスポーツ施設使用料の支出金額(2016年)は、最も少ない30歳未満の世帯の約9倍である(※1)。経済産業省は、フィットネスクラブなどの市場規模は2016年の7,100億円から2025年には1兆5,900億円に拡大すると推計している(※2)。積極的に健康づくりに取り組む高齢者は今後ますます増えそうだ。

高齢者の健康づくりに貢献しているフィットネスクラブだが、近年は認知症のリスク低減・進行抑制に関するプログラムも増えている。認知症予防や脳の活性化に効果がある、などとうたった運動プログラムを見かける機会が増えていないだろうか。また、フィットネスクラブに限らず、これまで子供向けが中心だった学習塾などでも、高齢者向けの認知症予防や認知機能の改善を目的としたコースを開設する教室が現れている。ほかにも、軽度認知障害(MCI)(※3)の早期発見アプリやゲーム、グッズなど、認知症予防に関する様々な商品やサービスが市場に広がりつつあり、健康意識の高い高齢者から注目されている。

認知症の病態解明や予防因子・リスク因子についてはまだ十分に解明されていないものの、運動や食事・栄養、人との交流によって発症を遅らせるなどの可能性を示すエビデンスが蓄積されつつある。そうした知見に基づいた、リスク低減・進行抑制の可能性がある商品やサービスが、高齢者を惹きつけているようだ。

しかしながら、認知症予防をうたった商品やサービスの中には、効果が疑わしそうなものもないではない。ましてや自分の症状に合ったものを適切に選び出すことは容易ではない。これは、各企業が独自に実証結果やエビデンスを提示しているため、比較することが難しいからである。効果が同じならば安い商品やサービスを選びたいが、やはり値段が高いほど効果も高いのだろうか、などと迷う人は少なくないだろう。

この点、2019年6月18日に政府の関係閣僚会議で決定された「認知症施策推進大綱」は、認知機能低下の抑制に関する機器・サービスの評価指標・手法を策定することを目標に掲げており、商品やサービスに関する実証に基づいた評価・認証の仕組みについても検討することが明記された。評価・認証の仕組みが整備されれば、高齢者がニーズに合致した商品やサービスをより適切に選択し、予防を含む認知症への備えに一層取り組みやすくなる。予防や進行抑制に取り組む高齢者が増えれば、認知症関連の介護保険給付費の伸びを抑制することにもつながるだろう。

「共生」だけでなく「予防」にも重点が置かれることになった認知症対策では、高齢期を自分らしく過ごしたいと望む高齢者が、質の高い商品やサービスを選択しやすい環境を整備することも重要だ。議論が進むことを期待したい。

(※1)総務省「家計簿からみたファミリーライフ 家計調査 家計簿で豊かな暮らしの基礎づくり」(2017年6月)
(※2)経済産業省「次世代ヘルスケア産業協議会の今後の方向性について」次世代ヘルスケア産業協議会(第7回)配布資料(2016年4月18日)
(※3)日常生活には支障はないが、年齢相応の認知機能レベルよりは低下している状態。認知症へ進行する可能性が高いとされている。

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執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 石橋 未来