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在職老齢年金の見直し財源に「打ち出の小づち」はない

2019年07月09日

経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司

2019年の骨太の方針や成長戦略実行計画では、在職老齢年金制度(在老)について、将来的な廃止も展望しつつ、審議会での議論を経て速やかに見直しを行うことが盛り込まれた。在老とは、厚生年金受給者のうち、賃金と年金の合計月額が64歳までなら28万円、65歳以上なら47万円を超える人は、年金の一部または全部が支給停止となる制度だ。

一定以上の収入がある高齢者にとっては、働くほど年金が減額されるため、高齢者の就労意欲をそいでいるとの指摘がある。働き手の長期的な減少が見込まれる中、意欲と能力のある高齢者が働ける環境の整備は重要だ。また、受給権が確立している公的年金が減額されることに違和感を覚える人は多いだろう。しかし、在老を見直すことは決して容易ではない。増加する給付の財源をどのような方法で確保するかが大きな課題だ。

公的年金制度は、100年先まで見据えて保険料と給付の財政的均衡を図るために、人口動態に応じて年金の給付水準を自動的に調整する「マクロ経済スライド」が備わっている。仮に現行のフレームワークの下で在老を見直し、給付が増加すれば、スライド調整期間が長期化することになる。これは低年金者を含む将来の年金受給者全員から、現在のかなり恵まれた高所得の年金受給者に対して所得移転が行われることを意味する。

現行のフレームワークを見直し、保険料負担を求めることも考えられる。だが、保険料水準は2004年から段階的に引き上げられ、2017年に法律上の上限に達して固定されたばかりである。歴史的に引き上げを続けてきた保険料水準を固定し、もはや引き上げないということを決めたのが2004年の年金制度改革の重要な成果の一つであった。こうした経緯を踏まえると、新たに保険料負担を求めることは現役世代からの理解が得られないだろう。

在老の見直しで高齢者の就業が促進されれば、年金財政にプラスの効果をもたらす。先行研究を見ると、64歳までの在老は就業を一定程度抑制しているとするものが多い。もっとも、64歳までの在老は年金の支給開始年齢の引き上げが完了すれば自然に消滅する。それにもかかわらず、今、それを縮小・廃止したのでは特定の世代のみが恩恵を受けることになる。一方、65歳以上に対する就業抑制効果はほとんど見られない。在老が適用される所得水準がかなり高いためだ。

2019年7月3日の党首討論会で安倍首相は、「負担を増やすことなく年金給付額を増やすという打ち出の小づちはない」と述べた。年金財政に打ち出の小づちがない中で、誰の負担をどの程度増やすのか。在老の見直しは、「負担の再分配」という難しい問題に最適解を見出す取り組みが同時に求められる。

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神田 慶司

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