遂に「顔パス」となった日本人の英国入国
2019年06月26日
英国を訪れる日本人には朗報がある。今年の5月20日より日本からの直行便が到着するヒースロー空港で、遂に日本人は全て「顔パス」の自動化ゲートの利用が可能となった。以前よりEU加盟国の国民や、事前に有料で登録した一部日本人の利用は認められてはいた。しかし5月からはICチップ搭載の生体認証情報のパスポートを所持する18歳以上の日本人であれば、観光・商用を問わず誰でも利用可能である(12歳~17歳も大人が同伴であれば良い)。
悪名高きヒースロー空港の入国審査の長い列は、英国の観光名所並みであり、筆者自身、最長で2時間近く並んだこともあるぐらいだ。この行列を避けるために、あえてロンドン内のガトウィック空港到着のフライトを選ぶ人も多かったほどである。
早速、国外出張の帰りに使ってみると、羽田空港などと同様のシステムで、自動化ゲートに数秒パスポートをかざし、画面を静視しただけで入国できる。従来のように就労ビザを提示することや、入国カード記入なども一切なくなり、長い待ち時間が一気に解消された。パリやフランクフルトの空港で長く並ばされた後に英国に帰国すると、その違いは一目瞭然である。ものの数秒で済んでしまうため、これだけでもう入国できるの?と、かえって心配になるぐらいだ。
アイルランド共和国と英領北アイルランドの国境は1998年和平合意を受け、北アイランド紛争中にしばしば暴力行為の発端となった国境検査所を廃止し、人や物が自由に往来できるソフトボーダーとなっている。このソフトボーダーを維持しつつ、英国のEU離脱(ブレグジット)によって生じる国境検査実施の必要性を満たすため、この自動化ゲートの顔認証等の仕組みを応用して、全長約500kmの国境沿いにカメラを設置し、移民や関税チェックを行うという壮大なプランを、保守党党首選の大本命であるジョンソン元外相が提唱している。この計画の技術導入には相当の時間がかかる可能性が指摘されていた。しかし自動化ゲートを通ってみると、意外とすぐに実現できるのでは?と思わされた。ぜひ日本に入国する英国人にも、自動化ゲートを開放して日英友好のシンボルとしてほしいと思う。
ただこの新しい自動化ゲート以上に衝撃的であったのが、入国審査に並ぶ列の区分が変更されたことだ。EU加盟国(英国はここに含まれていた)の列が廃止され、英国(UK)の表記が復活し、既にブレグジット後の表記に替えられていた。離脱期限が10月31日まで延長されたため、離脱の影響はじわりと英国の産業界へ影響を及ぼしている程度だが、既に入国審査では対応済みのようだ。
延長されたものの、残留派による2回目の国民投票の話もトーンダウンしつつあり、英国のEU離脱はもうそこまで来ている。国民投票当初は残留を支持していた旧知の英国人の専門家も、本来の期限をとうに過ぎ、気持ちは既にEUを離脱しているため、とにかく早くとブレグジットを希望したことは印象的であった。ジョンソン元外相とハント外相との新首相の座を賭けた、保守党党首選の決選投票の結果が出るのは7月23日以降であるが、どちらが首相になっても、既にブレグジットの準備が着々と進められているのが現状である。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
- 執筆者紹介
-
金融調査部
主席研究員 菅野 泰夫
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2024年12月日銀短観予想
中国の景気減速で製造業の業況判断DI(最近)が下振れか
2024年12月11日
-
政策保有株式の保有と縮減の状況
銘柄数は縮減傾向も保有額は増加の傾向
2024年12月11日
-
2024年度の自社株買いが大幅増となった背景と株価への影響
損保の政策保有株式売却が一因。自社株買いが株価の下支え効果も
2024年12月10日
-
第223回日本経済予測(改訂版)
日米新政権誕生で不確実性高まる日本経済の行方①地方創生の効果と課題、②「地域」視点の少子化対策、を検証
2024年12月09日
-
インフレによって債務残高対GDP比を低下させ続けることは可能か?
2024年12月11日