旅行・観光市場にみる変化の兆し

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2019年04月03日

  • 岡野 武志

2018年の訪日外国人旅行者数は、過去最多の3,119万人を記録した(※1)。しかし、17年の訪日旅行者数が前年から465万人余り増加したのに対し、18年は前年比250万人の増加にとどまっている。訪日旅行者数の増加率は、15年の47.1%から8.7%まで低下し、ひと頃の増勢は静まりつつある。訪日旅行者1人当たりの支出額も、15年の17.6万円をピークに減少傾向が続き、訪日旅行者の数が増えたほどには、旅行消費額を伸ばせてはいないのが実情であろう(※2)。大都市以外にも広がりをみせ、多くの地域に活気をもたらしてきた訪日旅行は、量的にも質的にも、新たな展開が必要な時期に差し掛かってきように思える。

変化の兆しは、国内旅行にもみられる。18年の国内旅行の延べ旅行者数は、宿泊旅行が前年から3,145万人(-9.7%)減り、日帰り旅行は5,290万人(-16.3%)減少している(※3)。国内旅行の消費額も、前年に比べて約6千億円(-2.8%)少なくなり、18年は20.5兆円に縮小している。18年に国内旅行消費が減少した額は、訪日外国人の旅行消費が増加した額を上回り、地域に与える影響は小さくない。一方、国内旅行1人1回当たりの旅行単価は、宿泊旅行が前年から9.1%増加し、日帰り旅行も11.2%増えている。訪日旅行を大きく上回る規模を持つ国内旅行も、これまでとは少し様子が変わってきている。

17年から18年の国内旅行の変化を世代別にみると、20~40代を中心に日帰り旅行が大きく減少している。これらの世代では、「出張・業務」や「帰省・知人訪問等」を主な目的とする旅行に減少が目立つ。わざわざ足を運ばなくても、ネットワークを介して情報をやり取りし、顔を見ながら会話することもできれば、会議や商談、時候の挨拶などのために、時間や費用をかけて旅行する機会が減ることは想像に難くない。科学技術の発達や経済・社会の動きに伴って、人々の働き方や暮らし方、学び方や遊び方などが大きく変化すれば、旅行する目的や目的地、旅行方法などもさらに変わってくる可能性がある。

70代の動向を詳しくみると、「観光・レクリエーション」の旅行が減少する中、「出張・業務」を目的とする宿泊旅行が増加しており、人生100年時代に向けて、新たなニーズが生まれていることも考えられる。9歳以下では、宿泊旅行と日帰り旅行がいずれも増加しており、働き方が変わる中で、家族の旅行も変化していることがうかがえる。10代でも、日帰り旅行者が増えており、変化に敏感な世代は、すでに何かを先取りしているのかもしれない。地域の活気を持続可能なものにするためには、過去や現在の成功体験だけにとらわれず、感度の高い戦略を立て、変化を好機に結びつけていくことが期待される。

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