人生100年時代の「新人」
2019年04月01日
四十の手習いでゴルフを始めた。センスがある人は独力で体得していくのだろうが、全く自信がなかったためレッスンプロに指導を乞い、「ポイントを抑えた技術指導」と「楽しんで取り組むためのサポート」を受けている。練習場で一人暗中模索していたならば、早々にクラブを放りだしていただろう。おかげで今は、70歳を超えゴルフ歴45年となる父とのラウンドを目標にしながら、楽しく練習ができている。職業人生が20年を超えた中で、趣味の世界とはいえ久々の「新人」経験は新鮮である。
「新人」というと、慣れないスーツに身を包んだ初々しい若者を思い浮かべるだろう。しかし、「人生100年時代」になると、私たちは長い職業人生において数回の「新人」時代を送らなければならない。
寿命延伸により、60歳までの蓄えと年金だけでは彩りある余生を送ることは難しくなる。覚悟すべきは、引退年齢が引き上がることよりも、学生時代や職業人生の初期に習得したスキルや経験だけでは働き続けることすら難しくなるということである。報酬1000万円を超える高報酬の仕事であっても、AI(人工知能)によるイノベーションによりその仕事すらなくなる可能性がある。「人生100年時代」を迎える私たちは、齢を重ねてからも学び直しやキャリアチェンジに迫られ、「新人」経験をすることが避けられないのだ。
「新人」として学ぶ力、学びを成果につなげる力は、どのように習得すればよいだろうか。自らが「新人」となる社内ローテーションや転職、兼業や留学などもあるが、取り組みやすいものとして趣味や検定試験へのチャレンジをお勧めしたい。その際、いつまでにどのような成果を出すか目標設定をすることは重要だ。充実した職業生活を続けることが学びの目的であるが、期限を区切らず成果を急がない学びはそれ自体が目的化してしまう。さらに、「新人」経験を苦行としないために使えるリソースは最大限に活用して、効率的に・楽しく習得することを意識したい。良い師、切磋琢磨できる仲間を得られれば最高だ。
そして、「新人指導」も学ぶ力を身に付ける最良の機会となる。新人に対してまともな指導をしないまま、現場に放り出して、「習うより、慣れよ」と暗中模索のつらい思いをさせてしまう例は多い。指導者として、効率的に・楽しく育てる方法を追求することは、自らを高めることにもつながる。成長実感を与え、仕事を楽しんでもらうことができれば早期の離職も避けられるだろう。
人生100年時代の適応力を身に付けながら、「新人」を導くプロとして組織に貢献できれば理想的だ。年若い「新人」を迎え入れる季節、自ら「新人」の師としての腕を磨きつつ、自らも「新人」としてチャレンジしてはいかがだろうか。
参考文献
「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)—100年時代の人生戦略」(東洋経済新報社、著リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット)
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- 執筆者紹介
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コンサルティング企画部
主席コンサルタント 廣川 明子
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