米国大手地銀の“完全統合”に見る危機感の高まり

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2019年02月28日

2月7日に、リーマン・ショック以降、進展が見られなかった米国の大手地銀の統合が発表された。米国南部の州を拠点とするBB&T銀行(ノースカロライナ州ウィンストン・セーラム)とSunTrust銀行(ジョージア州アトランタ)の統合である。両行の取締役会は「完全な対等の経営統合の合意を全会一致で承認した」と発表した(※1)。つまり、両行とも既存の銀行を引き継がずに、完全に対等の経営統合を反映して、両行で新たな機関(新銀行)を設立して、新しい銀行名とブランドで運営されていく、“完全統合”である。概算ではあるが、総資産4,420億ドル、預金残高3,240億ドル、融資残高3,010億ドルの全米6位の銀行が誕生する。日本でいえば、トップ地銀3行を合わせた規模に相当する銀行の誕生である。

これによって米国の銀行業界の本格的な再編の期待も高まっている。2008年比で2018年の米国の商業銀行の数は7割弱にはなったものの、依然、4,974行が存在している(※2)。ちなみに貯蓄銀行数は、8割弱の703行である。2016年のトランプ政権発足以来、比較的小規模な銀行に関して健全性と流動性の規制緩和が進められている。オバマ政権時代には考えられなかった比較的大規模な地銀同士の統合が公表されたことで、米国の銀行業界の再編が進展する契機となる可能性も否定できない。

上記2行の統合の背景には、テクノロジーの急速な進歩と普及と、それを実際に活用している大手銀行に対する脅威があるとされている。特に、完全にデジタル方法での当座預金口座の提供が普及したことで、当該地銀の預金増加のペースが減退している状況が挙げられている。テクノロジーの実際のビジネスでの活用において地銀と大手銀行において優劣がつきはじめていると考えられよう。上記2行の統合計画の中で、コスト削減をしながら規模を効果的に活かし、競争力を高めるために、新たな名前とブランドを持つ新銀行を設立して対応するとしている。具体的には、新銀行の本部は、“イノベーション・テクノロジー・センター”の機能を加えて、ノースカロライナ州南西部のシャーロットに設置する計画である。“コミュニティ・バンキング・センター”は同州のウィンストン・セーラムに、“ホールセール・バンキング・センター”はアトランタに置く計画である。新銀行がカバーする地域の世帯数は1,000万世帯、米国全体のおよそ8%(米国センサス局によれば2018年の全米の世帯数は1億2,700万)である。この顧客基盤を、上述の当座預金口座の例のように、テクノロジーによって大手銀行に浸食されている状況がうかがえる。

米国の状況を踏まえるまでもなく、日本の大手の地銀にとっても、日々進歩するテクノロジーの変化、それによって顕在化していく既存の金融業界のビジネスモデルのディスラプション(破壊)への対応は“待ったなし”であろう。ただし、統合あるいは再編の契機になるまでには至っていない。預金と貸出の状況では、貸出残高は増え続けており、預金への資金の流入も続いている。しかし、これが今後長期に亘って継続するとは、考えにくい。日本の銀行業界が直面するテクノロジーの急速な進歩、社会・経済の構造的な要因、貸出等の変化に影響を与える景気の循環的な要因を冷静に認識すれば、米国のような地銀の完全な統合による新銀行の設立を、戦略の選択肢の一つとして、本格的に採用していく銀行が出てくるかもしれない。

(※1)BB&T銀行のプレス発表「BB&T and SunTrust to Combine in Merger of Equals to Create the Premier Financial Institution」Atlanta, GA and Winston-Salem, NC, February 7, 2019
(※2)いずれも2018年9月末時点 出所は米国連邦預金保険公社(FDIC)。

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内野 逸勢
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 内野 逸勢