2022年度までに求められる見直し

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2019年01月22日

2019年4月以降の1年間で、新たに160万人弱の人が75歳となる(総務省「人口推計」)。これらの高齢者に対する医療費の窓口負担は、現在、現役並み所得者を除いて2割となっている。これが、2019年4月以降、75歳に達した者から後期高齢者医療保険制度に移るため、順次、1割負担に引き下げられることになる。現役並み所得者については引き続き3割負担となるが、それは判定基準が緩いという問題もあり、後期高齢者全体の7%程度にとどまる(厚生労働省「後期高齢者医療事業状況報告(年報:確報)平成28年度」)。

後期高齢者の窓口負担の見直しは、社会保障制度改革における以前からのテーマの一つである。膨張する医療費の主な支え手である現役世代の保険料負担が重くなる中、世代間の公平性や制度の持続可能性を確保していく観点から、後期高齢者に関する医療費窓口負担の見直しが求められてきた。

しかしながら、すでに後期高齢者で1割負担が適用されている人の負担割合を引き上げることは政治的に容易ではない。そこで、2014年4月以降に70歳を迎えた人に適用されてきた2割の負担割合を、75歳以降も1割に引き下げずに2割のままとする案が議論されてきたのだ。その対象となる人たちが75歳となり始めるのが、今年の4月以降である。2割の窓口負担で70~74歳を過ごしてきた人にとっては、2割負担のまま後期高齢者医療制度に移ることになれば、個人単位での負担感は変わらない。後期高齢者全体の負担見直しを行うよりもハードルは低いように思えたが、結果的に時間切れとなり、後期高齢者の窓口負担の見直しについては議論継続となっている。

政府は2019~2021年度の3年間を「基盤強化期間」と位置付け、2025年度の基礎的財政収支の黒字化を目指している。それには、社会保障の自然増の抑制や医療・介護のサービス供給体制の適正化・効率化、生産性向上に向けた取り組みはもちろん、給付と負担の見直しを含む社会保障制度改革が不可欠である。特に、2022年度以降は団塊世代が後期高齢者入りすることから、早い段階で方向性を定めておくことが重要とされる。

しかし、「新経済・財政再生計画改革工程表2018」(2018年12月20日)では、後期高齢者の窓口負担の在り方について、2019年度は「早期に改革が具体化されるよう関係審議会等において検討」するにとどまり、骨太方針2020で取りまとめるとの計画が示された。それ以外にも、同工程表では、医療・介護サービスの提供体制の効率化促進や、生産性向上を図る取り組みが決められた一方で、薬剤自己負担の引上げや外来受診時等の定額負担の導入、「現役並み所得」の判断基準の見直しなど、給付と負担の見直しについては先送りされた項目が多い。

給付と負担の見直しに関する項目の中では、2019年4月以降に後期高齢者に移行する人の窓口負担を1割から2割に引き上げることは、タイミング的に対応しやすいものだったように思えた。それにもかかわらず実現できなかったということは、改革の壁はよほど厚いとみえる。2022年度まで時間はほとんど残っていない。改革に向けた議論が進むことを期待したい。

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 石橋 未来