価値観の変化と人事評価制度のアップデート

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2019年01月08日

  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 小林 一樹

企業の人事評価制度は、当該企業の価値観を色濃く反映する。人事評価制度は、社員の働きに対する評価を通じて、誰に報酬を多く配分するか、誰をどの役職につけるかと密接に関連しており、企業の価値観である「必要とする人材の姿」を示すものである。ただし、企業も社員も、この数年で価値観が大きく変化した。とある経営者は「以前は川の上流で釣り糸を垂らせば魚が釣れる事業環境だったが、今は下流に出て、潮の流れもどのような魚がいるかさえも分からない環境で、他の釣り人より早く多く魚を釣る方法を考え、実践できる人材が必要」と例えており、新しいことに挑戦する人材や、従来と異なる角度で物事を見る異端な人材の価値が以前より高まっている。評価を受ける側の社員としても働き方改革を通じて、働くことに対する価値観が多様化した。しかし、それらの変化にもかかわらず、社員の人事評価制度は従来のまま運用され、新しいことに挑戦しても評価されない、業務を効率化しても評価されない、まさに「やるだけ損」という気持ちにさせていないだろうか。

現場で部下の評価を担うマネージャに話を聞くと「働き方改革で部下がオフィスにいる時間が減り、働きぶりが見えづらくなった」、「労働時間ではなく成果で評価せよと言われるが、何をもって成果とするか分からない」、「多様性を活かせと言われても、異端な人材は部下として扱いづらい」といった声が聞かれ、「必要とする人材の姿」と現場での評価に乖離が見られる。このような状況は、評価に対する部下の納得感を低下させる一因となる。

昨今は360度評価や1on1ミーティング(※1)などの仕組み、KPI、OKR(※2)などの成果指標の管理方法、さらには非金銭による報酬制度など、複雑化する仕事を多面的に評価するための方法論も浸透してきた。ただし、これらの仕組みを、他社事例を参考に導入しても実効性は高まらない。企業の価値観は企業ごとに異なり、それに応じて適切な人事評価制度が異なるからである。価値観の変化に合わせ人事評価制度を見直す時、まず経営者が陣頭指揮を採り、5年後、10年後にありたい自社の姿を描き、バックキャストで必要な人材の姿を議論し、現場で運用可能な制度の形に落とし込んでいく作業が必要となる。これは人事部だけが考えるものではなく、経営者、社員も巻き込んで議論すべきことであろう。元号も変わり新しい時代の幕開けを迎える今、改めて自社の人事評価制度のアップデートが求められているのではないだろうか。

(※1)1on1ミーティングとは数週間から数か月に一度、マネージャと部下が1対1で行う面談のことで、主に部下のコーチングやフィードバックを目的に実施される。
(※2)KPIはKey Performance Indicatorの略で重要な業績評価の指標を設定し、その達成度を管理する手法のこと。OKRはObjectives and Key Resultsの略で目標と結果の達成を管理する手法のこと。どちらも近い考え方であるが、KPIは達成度の管理、OKRはコミュニケーションの促進に重点を置いて活用するケースが多い。

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小林 一樹
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