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一帯一路に見る米中対決下での日本の生き方

2018年11月29日

専務理事 道盛 大志郎

それにしても大変な時代になったものだと思う。APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が、首脳宣言の採択を断念する事態に追い込まれた。原理原則を高らかに宣言すればよいだけの首脳宣言をまとめる事すらできないという、国際協調が死語になったかのような混迷だ。それも、つい2年前まで世界秩序の立役者を自認し、自分自身が強力に唱え続けた自由貿易主義を、米国が全否定したことが最大の原因だ。段々慣れっこになってきたとはいえ、改めてショックを禁じ得ない。

ほんの少し前まで、日米欧の中で中国観に厳しいことでは、我が国が抜きんでていた。マスコミを見ても、中国に厳しい記事が出れば読む人は増えた。今でもその傾向に変わりはないが、他国と比較してみると、あっという間に抜き去られた米国の背中は遠くなり、欧州にも先を越されそうな勢いだ。

確かに、「中国の夢」を熱く語り、「中華民族の偉大な復興」を唱える習近平国家主席の下での中国だ。南シナ海などでの行動を見れば、誰だって警戒して当然だろう。特に米国では、覇権国としての激しい敵対意識は、トランプ大統領やペンス副大統領だけではなく、共和党、民主党、言論界を問わず、広範に共有されている。

しかし、世界秩序を守るための正しい行動が中国を叩くことなのか、というと疑問も残る。一つには、対抗か共存か、という問題もあるが、それは後述するとして、まず考えるべきは、中国だけが台頭していく国なのか、という問題だ。

中国は、「未富先老」の悩みを抱える。真に豊かになる前に高齢化してしまった、という悩みだ。我が国では、生産年齢人口が1996年から減少し始めて今では国家的問題となっているが、中国も2012年から減少に転じている。一人っ子政策ゆえ、今後の落ち込みは我が国を凌ぐ。「中国製造2025」による生産性向上への取り組みは、不公正だと米国を怒らせもしたが、中国にとっては懸命の延命策なのだ。これまで立ち遅れていた社会保障や地域格差、環境など、取り組むべき課題も多く、前途は多難だ。

確かに、多くの機関が2030年頃までに中国経済の規模が米国を追い抜くと予想しているが、次第に勢いはインドに移り、それから10~20年以内には、インドも米国に肩を並べるという予想が大半だ。そんな遠い将来、当たるも八卦当たらぬも八卦ではあるが、要は、米中の覇権争いというより、多極化する中での、日欧露なども含めた位置取りの争いとなると考えた方が良いのではないか。

その中で日本はどうして行ったらよいのか。米中、それに将来の大国候補インド、更にはASEAN(GDPで見ると、2050年までには我が国はインドネシアに抜かれているとの予想も多い。)といった国々の狭間に立つ我が国のような立場では、対抗していくだけでは道は開けてこない。価値観などに違和感はあっても、できる限り共通認識を広げて共存を図ることも一つの方策だろう。

そう考えてみると、このところの日本政府の立ち回りは、なかなかのものだと思う。APEC首脳会議で、貿易問題を巡って米中が激しい応酬を繰り返す中、安倍総理は、「自由貿易の旗手として自由で公正なルールの深化に取り組む」と立ち位置を明確にしつつ、「WTO改革にもしっかり取り組んでいく」と米国の不満にも配慮を見せた。

一帯一路に至っては、なおさら絶妙なバランス感覚と言って良い。米国に事前協議を尽くした上で、10月26日には安倍総理が訪中して52本の協力覚書を結び、日中首脳会談を成功させた。しかも、米国に配慮して、合意文書にも日本側の発表にも、「一帯一路」の文字は一度も出てこない。すべて、「第三国民間協力」という言葉で置き換えられている。中国側では、当然のことながら、「一帯一路」のオンパレードであるにもかかわらず、である。

帰国翌日には、来日したインドのモディ首相を山梨県の別荘にまで招いて「日印関係は最も可能性を秘めた2国間関係」と持ち上げる。

そして、11月13日に米国のペンス副大統領が来日した際には、日米連携の象徴として、日米豪印を軸とする「自由で開かれたインド太平洋構想」に沿った8兆円のインフラ投資構想を発表した。前日にJBIC(国際協力銀行)を始めとする日米豪の類似の政府機関間で、投資推進のための覚書を結んだ上で、である。そして、APEC首脳会議で米国はそれを大々的に打ち上げた。

八方美人と言えばそれまでだが、日本らしい実に細かな気配りだ。

企業に期待されるのも同じだ。これからの道は容易でない。52本の協力文書が結ばれたとはいえ、大半はスタート地点に立ったばかりで生煮えの段階だ。米国の視線も気になるだろうし、中国との関係も大変だ。日本企業が絡めば透明性や経済性が高まる、というのが米国への殺し文句だが、それを実現していく苦労は民間企業に委ねられている。中国側との調整に、困難が生じる場面も出てこよう。

しかし、こうしたバランス感覚こそ、多極化する世界の中にあって日本に求められるものだ。そこには、国家も企業もない。これから長期にわたって続く多極化の流れの中で、生きていくには必須の技だ。

そんな思いで、日中関係の今後を見守ってみたいと思う。

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