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「就社」から「就職」、それは国民が選択すべき問題

2018年10月25日

調査本部 執行役員 調査本部副本部長 兼 金融調査部長 保志 泰

経団連会長の発言をきっかけに、就活ルールについての議論が高まった。結局、経団連は2021年春入社以降の就活ルール(採用選考に関する指針)を策定しないことを決め、代わりに政府主導でルール作りをしていくこととなった。

新興企業や外資系企業にルールが適用されない中で、経団連加盟企業だけが従うルールの実効性に疑問が生じていることが一つのきっかけと思われる。しかし根本的には、これまでに日本社会を形成してきた「就社」システムが時代にそぐわなくなり、むしろ本質的な意味の「就職」が好ましいという思いを企業が抱き始めたようにも見える。

「就社」システムは、職務内容を限定せずに新卒学生を一括採用し、入社後に人材育成を行いながら配置を行っていくものである。基本的に終身にわたってその企業で働くことを前提に、企業は人材育成のコストを負担するのである。企業内で人材育成を行うから、企業が大学など高等教育に要求するレベルは必ずしも高くならない。

これがもし本質的な「就職」システムに変わったらどうなるか。まず、企業が応募者に対して要求する資質が変わり、職種に応じて専門的な知識・能力を求める場合が増えるだろう。その場合、職種などに応じた待遇の差が大きくなる可能性もある。「就社」における採用基準として重視されていた「性格」「人柄」「コミュニケーション能力」などのウエイトは自ずと低下し、大学で培った専門的な能力が評価対象の中心となる。大学教育に対する要求が高くなり、大学自体もレベルが高まるかもしれない。「就活ルール廃止で早くから就活をしなければならないのでは?」という学生の不安は無意味となる。

また、企業にとって、高い要求水準を満たす人材が多く採用できるようになれば、人材育成に対するコスト負担の軽減につながる。要求する人材が新卒マーケットに見当たらないのであれば、中途採用によってそれを満たすことになる。転職マーケットが拡大し、人材の流動化が進む。終身雇用制は自ずと崩れる方向に向かおう。

今後、日本の大企業では従業員の高齢化が必至で、政府が高齢者雇用を促進すればなおさらである。企業は職種や能力などによって待遇を柔軟に変えていかなければ、企業自身の持続性が問われかねない。

日本全体がこのようなシステムに移行するには、新卒採用の方法だけ変えればよいものでは決してない。徐々に移行するにしても、様々なひずみ、あつれきが生じることは容易に想像できるだろう。「就社」システムでは、ある意味、能力や意欲を含めて多様な人材を組織内にとどめておくことができるメリットがあった。しかし「就職」システムではそれが難しくなり、すでに企業で働いている人に対しても待遇や働き方の見直しが迫られる可能性もあろう。いずれにせよ、「就職」への転換は、もはや企業と学生の関係だけの問題ではなくなる。国民全体がそれを選択するかどうかの問題と言えそうだ。

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保志 泰

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