シェアリング経済化で名目GDPは膨らむのか?
2018年08月28日
現在、日本では、経済構造や景気動向をより正確に捉えるため、GDP統計を軸とした経済統計改革が進められている。こうした中、2018年7月25日、内閣府は、これまで経済活動の実態が十分把握できていない、カーシェアリングや民泊といったシェアリング・エコノミーの生産額の試算値を公表した。世界的な「シェアリング経済化」という新たな潮流を踏まえると、今後の注目点は、それが国内で生み出された付加価値を示す名目GDPに及ぼす影響度であろう。
シェアリング・エコノミーの生産額(2016年)の試算値を見ると、全体で4,700億~5,250億円程度とされ、そのうち名目GDPの押し上げに寄与するのは、950億~1,350億円程度となっている。現在、日本の名目GDPが約550兆円であることを勘案すると、今のところ、その影響度は微々たるものだと評価できる。加えて、この押し上げ効果は、ひとたびGDP統計に取り込まれればなくなる一回限りのものだ。
他方、シェアリング・エコノミーがまだ黎明期であることを考えると、今後期待される急速な成長フェーズにおいて、明確なプラス効果をもたらす可能性を秘めている。特に、シェアリング経済化によって、その周辺分野で新たな需要を生むことになれば、既存の産業に対してもプラスの影響を与えることになる。これは、少し楽観的かもしれないが、「シェアリング革命」が日本経済を牽引する成長実現シナリオだと言えよう。
その反対に、最悪のシナリオとしては、モノの「購入」から「シェア」へと長期的にシフトすることにより、日本の名目GDPが縮小してしまうケースが考えられる。これは、モノのシェアの場合、GDP統計では、取引されるモノの金額でなく、その仲介手数料のみが計上され、その結果、モノの購入に比べて付加価値額が小さくなるためだ。このケースでは、モノを買わずにシェアして浮いたお金を、消費者が他の新たなモノ・サービスの購入に振り向けるか否かが焦点となろう。
最後に、以上を踏まえつつ、今後の基本シナリオとして、シェアリング経済化の進展は、全体的に日本の名目GDPに対してプラス方向に作用すると考えている。やや願望込みではあるが、新たな経済活動の普及・拡大が経済ダイナミズムの源泉となってきたという歴史に鑑みると、決して不自然な見方ではあるまい。実際に名目GDPが増加するのか、それとも減少してしまうのか、GDP統計の大改革の行方については、今後も目が離せない状況が続きそうだ。
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