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生産性向上、課題は労働時間抑制から付加価値創造へ

2018年07月24日

経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司

働き方改革関連法が2018年6月29日に成立し、7月6日に公布された。これまでは労使合意すれば実質的に青天井だった残業時間に罰則付きの上限が設けられる。臨時的で特別な事情があっても、年720時間、月100時間未満、複数月平均80時間が残業の上限だ。

施行は、大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月である。労働時間の実態を踏まえた適用猶予として、自動車運転業務や建設事業、医師等は2024年4月に施行される。また、これに関連して、政府は国家公務員の残業時間に原則として同様の上限を設け、2019年4月から適用するという。

長時間労働が珍しくない企業では、残業規制への速やかな対応はかなりの難しさを伴うだろう。単純に労働時間を削減するだけで、生産体制や業務効率などを見直さなければ収益の減少を招くと考えられる。総労働時間を維持するために雇用を増やそうとしても、労働需給の逼迫から人材確保は容易ではない。

しかし日本の経済社会構造を踏まえれば、残業時間に上限が設けられた意義は大きい。多くの企業では、使用者の命令に基づいて従業員の職務が決まるという、いわゆる「総合職」が一般的だ。こうした働き方の下、一部の企業だけが自主的に残業規制すると、競合他社に対して業務量の面で不利になり、市場シェアが奪われる恐れがある。個々の企業努力で長時間労働を是正することには限界があるため、国全体として規制する必要がある。

また、将来を見据えると、「雇用減少時代」は確実に到来する。女性や高齢者の労働参加が進展しても、現在6,000万人ほどの雇用者数は今後50年で2,000万人ほど減少すると推計されるからだ。希少性を増す働き手は「人材」ではなく「人財」と捉えるべきであり、従業員の健康管理を徹底しつつ、能力を引き出す企業が評価される社会を目指すことが、持続的な経済成長につながる。

これからは、限られた人財と限られた労働時間の中で付加価値をいかに生み出すのか、すなわちいかに労働生産性を引き上げるのかがいっそう問われる。そのアプローチは、労働生産性の算出式の分母である労働時間を減らすための効率化・適正化と、分子の付加価値を拡大させるイノベーションに大別することができる。新たな商品・サービスの開発や新規事業の創造、市場の開拓など、企業の成長力を左右する後者の取り組みがとりわけ重要だ。

イノベーションと聞くと、研究開発投資や教育投資の拡大などを連想する読者が多いかもしれないが、身の回りにもそれに当てはまることはたくさんある。例えば、オフィス環境を見直すことでイノベーションが起きる可能性は十分にある。実際、オフィスに巨大モニターを設置して国内外の支社と常時コミュニケーションが取れるようにしたり、部署を超えて気軽に会話できる共有スペースをオフィスの中央に設置したりした企業がある。その企業では、社員それぞれが持つ知識やアイデアが共有されやすくなり、結果として業績向上につながったという。労働力という限られた資源をどのような業務に配分し、どのように活性化させるか。企業それぞれの実情に応じた創意工夫が求められる。

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神田 慶司

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