大規模地震対策は企業が鍵を握る

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2018年06月06日

  • コンサルティング本部 顧問 三好 勝則

日本列島は地震による被害が、繰り返し発生する。1995年の阪神・淡路大震災では、直下からの強い揺れによる建物の倒壊や火災により6千人を超える方が亡くなった。2011年の東日本大震災では、大きな津波により死者・行方不明者が2万人を上回る(2018年3月1日現在)。2016年の熊本地震は、震度7の地震の後に、より大きな地震が発生し、被害を拡大した。

直下で起こり予測が難しい内陸型地震、海底の地表が移動することにより一定の周期で起こる海溝型地震ともに、被害を小さくするために日頃の対策が重要である。経済機能の停止による被害の波及が懸念される首都直下地震と、周期からみて切迫していると予想される南海トラフ地震には、特に対策が急がれる中で、企業の取り組みに関する経済界の動きが活発になってきた。

南海トラフでは、過去に概ね百年から百五十年の周期で大地震が発生している。静岡県から四国沖にかけて複数の領域で、ほぼ同時または時間差で発生する特徴を持っている。こうした特徴に鑑みれば、行政機関、住民、企業、各種団体等が防災対策を計画し、関係する地域ごとに判断がばらつかないように対応する仕組みが必要となる。中部経済界では、大規模地震の発生可能性が高まった場合の具体的な対応を整理するための検討会を中部経済連合会などが設置している。この検討会によれば、2018年3月までに企業へのアンケートや対策が特に求められる業種からのヒアリングを通じて状況を調べたところ、電気供給と情報通信機能の途絶による操業への影響は大きいとしつつ、そのための備えはほとんどの企業で実施できていない。また、他社(取引先、同業、近隣など)と協調した対策は進んでおらず、実施する場合も温度差や実効性などの課題が多いことも判明している。議論は緒に就いたばかりであるが、企業の対応を具体化するために、状況の把握と対策の検討を急ぐ必要がある。

首都圏における災害に対する脆弱性は、液状化、交通機関の麻痺、電力等の途絶による事業活動の停止など大都市特有の課題に起因しており、事前の調査研究と課題の検討が行われてきた。政府の中央防災会議によれば、都心南部の直下地震により発生する経済的被害は、建物倒壊等による直接の被害が約47兆円である一方で、生産・サービス低下による被害が約48兆円と推計される。

企業が、自らの災害リスクに基づいた対策を実施することがまず重要であることは、かねてから指摘されてきた。加えて、取引先、事業者団体等と連携、情報共有を図って企業活動を支える共助の防災体制を作ることも重要な対策である。さらに2018年3月に、日本経済団連合会、全国銀行協会、日本税理士会連合会など13の団体が「防災経済コンソーシアム」を設立した。企業の経営判断に影響を与える関係者が、共通の理念を掲げて、各企業が災害への備えを促進するように働きかける取り組みであり、成果に注目したい。

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