広がりを見せるESG投資、期待されるガバナンス開示の充実

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2018年05月09日

  • 大村 岳雄

ここ数年、資本市場では上場企業が行っている環境や社会、企業統治への取り組みを評価するESG投資が注目されている。この背景には、国連が2006年に公表した投資家に対して環境や社会に配慮した投資を促す「責任投資原則(PRI)」がある。その2年後の08年におきたリーマン・ショックで、短期的な利益を求めた投資に対する反省から、このPRIへの賛同が広まり1700を超える世界の機関投資家がこれに署名をしている。

この流れを受け、日本でも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が15年にPRIに署名し、さらに、17年7月にはGPIFがESG投資を行うべく、ESGインデックスを公募し、1兆円の投資を開始している。

このようなESG投資の広がりに呼応して、上場企業側も投資対象とされるために、環境・社会・ガバナンスに関する取り組みを積極的に開示するようになってきている。開示手段の一つとして統合報告書があるが、これを発行する企業が増加している。統合報告書の発行企業数は、2010年26社にすぎなかったが、2017年には341社と13倍超に拡大している。(※1)

ESGの要素のうち、ガバナンスに関する開示を幾つかの統合報告書で見てみると、「コーポレートガバナンスに関する基本方針」、「ガバナンスの体制図」、「社外取締役の選定理由と会議体への出席状況」など一般的な事項の記載が中心となっている。これらは従前から公表されているコーポレートガバナンス報告書にも記載されている内容であり、形式的な記述にとどまっている感が否めない。

開示制度の歴史的経緯やガバナンス体制そのものの考え方の違いから単純な比較はできないが、欧米公開企業のガバナンス開示では、その企業自身のガバナンスガイドラインや社外取締役の経歴やそれぞれの社外取締役に期待している専門性の一覧、役員報酬やリスク管理の状況に関しては委員会報告(報酬委員会レポート、監査委員会レポート)の形式で報酬体系(固定、変動、インセンティブの構成)の考え方、ベンチマークしている企業との比較、重要なリスクとリスク管理の手法、そしてリスクへの対応状況などを開示しており、ガバナンスに対する姿勢がより具体的でわかりやすい。

そこで、日本においても、「なぜ現在のガバナンス体制を選択しているのか」、「価値創造と経営戦略のストーリー」、「ガバナンス体制の運用面における成果や課題」、「重要と考えているリスクとその対処方針」など、もう一歩踏み込んだ開示をしてはどうだろうか。

幅広い投資家からの支持と信頼を得るためにも、ガバナンス開示の充実を期待したい。

(※1)KPMGジャパン 「日本企業の統合報告書に関する調査2017」(March 2018)

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