日本企業が爆買いされる日

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2018年03月12日

  • 前田 和馬

昨年12月、言論NPO主催の「第13回東京-北京フォーラム」に参加した。筆者の聴講した経済分科会では、日中の企業経営者や研究者が「自由貿易とグローバリゼーションの未来と日中協力の在り方」というテーマで議論が行われた(※1)。

興味深かったのは「中国の経済規模や実力を、日本は適切に評価してほしい」との中国側からの意見である。この背景には、「中国経済はバブルであり、それはいずれ崩壊する」との予想を持つ日本人が多いことが影響しているようだった。「中国は過小評価されている」との認識は、日本企業が持つブランド力への関心にも繋がっているように思えた。特に、日本の老舗企業のポテンシャルに関して中国側から言及があったことは印象に残っている。

創業100年を超える企業は日本に約3万3千社あり、その54.2%は従業員10人未満の小規模企業である(※2)。一方、今後5年間で30万以上の中小企業経営者が70歳になる中、その6割は後継者が決まっていない(※3)。後継者不在の中小企業には、多くの老舗企業も含まれるだろう。

大廃業時代を間近に控え、外資系企業にとっては優良企業を買収するチャンスが確実に広がる。また、日本企業が二の足を踏むようなM&A案件についても、ホテルや観光サービス業では訪日外国人向けに特化する、製造業ではメイド・イン・ジャパンを売りにアジア向けの製品輸出を拡大する等の事業転換が考えられる。中国を中心とした外資系企業が、後継者不在の中小企業に対する有力な買い手となるかもしれない。

加えて、人手不足を背景に増え続ける外国人労働者が、こうしたM&Aの触媒となる可能性がある。買収先を見つける情報源として、買収交渉を進める潤滑油として、買収後に事業を拡大する担い手として、外資系企業が日本の外国人労働者に目をつけることも考えられよう。外国人雇用を行う事業所は、従業員30人未満で前年比+14.2%(2017年)増えており、こうした小規模事業所で外国人労働者の33.9%である43万人が働いている(※4)。

経営者の抵抗感から、中小企業のM&Aに外資系企業が入る余地はないとの考えもある。しかし、中国や台湾の企業による近年の大手家電メーカー買収は、過去にどれほど予想されていただろうか。日本の中小企業が爆買いされる日は、遠くない未来に訪れるかもしれない。

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