GPIFの運用収益に対する期待

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2018年01月29日

2017年7-9月期のGPIF(※1)の運用実績は、期間収益率が2.97%(収益額は4.5兆円)と、5四半期連続で収益率がプラスとなった。2001年の自主運用開始以来の累積収益額は62.9兆円と、2016年度末から約10兆円増加している。さらに、GPIFは近年、オルタナティブ投資(未上場株式、インフラ、不動産など、従来の投資対象以外への投資)や、ESG投資にも積極的な姿勢を見せている。リスクを分散しながら、新たな投資収益機会の獲得も期待されよう。


ここで、改めて、GPIFの公的年金制度における役割を確認してみる。日本の公的年金制度は、世代間扶養(※2)の仕組みを基本としている。しかし、少子高齢化の進行によって、年金給付支出は保険料収入を上回り、年金積立金を取り崩し給付に対応しているのが現状だ。給付水準の引き下げ(マクロ経済スライドの本格適用等)、支給開始年齢の引き上げといった給付支出の拡大の抑制を図る一方、保険料の引き上げによる収入の拡大という両面の施策が取られていた。しかし、厚生年金保険料率は2017年9月を最後に予定されていた引き上げが終了した(※3)。年金給付のための収入を増やすもう1つの策が、年金積立金の活用である。


年金積立金とは、世代間扶養の仕組みの中で、その時の現役世代によって納められた保険料のうち、年金給付に充てられなかった分を積み立ててきたものである。年金積立金を運用するのがGPIFであるが、その運用に際しては「長期的な観点から安全かつ効率的に運用」することが求められている。GPIFは基本ポートフォリオ(株式や債券等の構成割合)を設定し、市場動向を踏まえ一定の乖離許容幅で資産構成を管理している。かつての基本ポートフォリオは、国内債券を中心とした構成割合であった。しかし、2014年10月に現行のものに変更されて以降、国内外の株式などリスクの高い資産への投資割合を高めて、運用収益の拡大を図っている。


プラスの収益が続くGPIFだが、公的年金については、保険料の引き上げが終了し、今後、支給開始年齢のさらなる引き上げや給付水準の引き下げなどが行われる可能性もある。少子高齢化が進行する中で、積立金の活用だけで制度の持続性が担保されるものでもないだろう。しかし、このようにプラスの収益が続けば、国民の安定的な年金給付への期待は高まり、公的年金には期待しないと諦めている現役世代の意識も変わるのではないだろうか。当面はGPIFの運用成果が注目されよう。


(※1)年金積立金管理運用独立行政法人。Government Pension Investment Fundの略。厚生年金保険、国民年金の積立金の管理及び運用を行う。
(※2)現役世代が納める保険料を、今の高齢者に年金として配分するという仕組み。
(※3)厚生年金保険料率は2004年10月の13.934%から毎年引き上げられてきたが、2017年9月以降は18.3%で固定された。厚生労働省「厚生年金保険料率の引上げが終了します」(平成29年8月31日)を参照。

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 佐川 あぐり