バンコク200バーツの戦い
2017年10月26日
タイへ行ってきた。
首都バンコクのタクシー代は初乗り料金が35バーツ(1バーツは約3円。以下、B)から。15Bから始まる地下鉄はともかく、ビッグマックやスターバックスのトールラテが110~120B前後といった物価水準を考えると結構、安い。ただし、少しコツがいる。ガイドブックには「個人タクシーではなく、屋根に“TAXI METER”と表示灯のあるタクシー会社所属の車を選べ」と書いてあるが、油断は禁物だ。実際には(メーター走行は、法律で義務になっているようなのだが)運転手がスイッチを入れなければ、料金は交渉次第だ。
滞在中、何度、“200B”と言われたか分からない。たまたま同じ地下鉄の駅を起点に何度も乗降したので、ほぼ同じ距離に位置する異なる観光名所には50B強で行けることが分かってきた。言い値との差額は、換算300~450円ぐらいだが、交渉に際して「(当方が観光客で知らないと思って)足下、見やがって」という悔しさから寛容にはなれなかった。
ただ強がってはみたが、筆者は雨季に行ったので、初めての夜、知らない街の闇の中で傘もなく、スコールに遭って、心がくじけそうな時、200Bの誘いに負けた。トゥクトゥクにも乗りたかったので、(そもそもあの乗り物にはメーターすらないが)200Bに負けた。
しかし、ムエタイ観戦の帰り、夜の9時半に駅から離れたスタジアムで判で押したように、200Bと口々に言われたが、断り続けた。いつの間にか、あたりにタクシーはなくなっていたが、待ち続けた。ようやく乗車すると、やはり、最寄り駅まで100Bもしなかった。
さらに別の日の夕方、有名な寺の傍で、帰ろうとすると“どこ?”と客待ちのドライバーに日本語で話しかけられた。駅名を言うと案の定、200Bだと言う。50BならOKと始まった問答の後、“渋滞する(から、その分、割り増し)”と食い下がる彼を振り切るように“TAXI METER”車を探して乗り込むと、運転手は振り向いて、にやりと200Bだと言う。とっさにSTOPと言って、ドアを開けて降りた。次のタクシーでは開口一番、“メーター!”と、つい大声になった。運転手は、渋々、メーターで走り始めた。途中、多少、ノロノロはしたが駅につくと55Bだった。素直に従ってくれたお礼もかねて70B払って降りた。
滞在中、提示された価格の確からしさについて、毎度、腹の探り合いが続くと段々、人(相手)を信じられなくなりそうだったが、金額は小さくても交渉を伴うからこそ、まさにDeal(取引、商い)というものだと思うようになってきた。さらに真ん中で折り合うために、最初1/4ぐらいから吹っかけてみることさえ、抵抗がなくなってきた。
実は、日本史で習った、越後屋の“掛け値なし”については「現在では当り前になっている正札販売を世界で初めて実現し」(三越伊勢丹ホールディングスのウェブサイトより)とある。
正しい価格を示した値札を使うことで来店する顧客ベースの拡大につなげること、当時、世界最大の人口を誇った極東の大都市、江戸で実現したイノベーティブな販売手法は誇るべきではあろうが、どうやら現代でもグローバル・スタンダードとはいえないようだ。
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