ICOは最新の投資手法?

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2017年08月23日

世界ではICO(Initial Coin Offering、新規仮想通貨公開)(※1)と呼ばれる資金調達手段が話題になっている。ICOは、2017年1~7月の累計調達額が10億米ドル(前年は1億米ドル超)を超え、数分間で数千万米ドルもの資金を投資家から集めることに成功した企業もあるなど、活況を呈している模様である(※2)

ICOでは、ICOによって資金調達する事業者(ICO実施事業者)が株式に代わって「トークン」(電子データの証書)を投資家に発行し、証券会社を経由せずに投資家から直接資金を集める(※3)。この際、越境決済の容易性などから、一般にビットコインやイーサ(イーサリアム)といった仮想通貨で投資を受け付ける点が特徴だ。ICO実施事業者は、このように集めた仮想通貨を仮想通貨交換所で法定通貨に交換して投資に活用する(※4)

投資家はトークンを、ICO実施事業者が調達した資金で開発する商品との交換や、ICO実施事業者のオンラインサービス内での財・サービスの支払いなどに利用できる。トークンは、ICO実施事業者が得た収益の投資家への分配に利用されることもある。ICOは、初めからトークンによる投資家同士の流動性を意識した設計となっており、上述のケースでは、トークンが仮想通貨交換所に新しい「仮想通貨」として登録され、参加者の取引が拡大することによって高騰した。

ICOを投資先としてみたとき、さしあたり少なくとも次の2点に注意すべきだろう。1つ目は、ICOに対する規制当局の取り扱いや法規制上の解釈が明確でない点だ。ICOによって発行されたトークンは、上述したような特徴から、各国法において「有価証券」に該当する可能性がある。米国SECは、ICOの1つであるThe DAOが発行するトークンを有価証券であると判断したと公表した(※5)。投資家保護の観点から、投資先のICOが法的にどのように位置づけられるのかは重要だ。

2つ目は、セキュリティの懸念だ。ICO実施事業者が運営するウェブサイト等が悪意ある者の攻撃を受け、集めた仮想通貨を奪われる事例が発生している。2017年7月には、ICO実施事業者を対象とした仮想通貨の盗難が複数件発生したとの報道があった(※6)。このような被害にあうと、その後のICO実施事業者の事業運営や発行済みのトークンの価値に少なからず影響があると考えられよう。

このような状況を踏まえ、他国に先駆けて一部のICOを有価証券に該当するとした米国においてさえ、投資家に対してICOへの注意喚起を促す文書を公表した(※7)。同文書では、トークンが有価証券に該当するか否か、ICO実施事業者のSEC登録有無、関連する連邦法の適用可能性などを確認してICOへの投資を判断する必要があるとしている。つまり、投資アドバイザーによく相談すべきということだろう。どのような投資にも当てはまることだが、判断するに足る情報を集めて投資先を評価するとともに、投資にあたって保護される内容を確認することが欠かせない。ICOはグレーな部分があり、仮想通貨の活用という新規性や値動きのみに着目して投資するのは、推奨されないだろう。

(※1)ICOの明確な定義は存在しない。本コラムでは、執筆時点までの国内外の複数の報道や後述する米国SECの公表文書などを基に解説している。
(※2)例えば次のような報道。Financial Times, “Tech start-ups raise $1.3bn this year from initial coin offerings”, July 18, 2017
(※3)ICOは、企業が新規に株式を発行して資金を集めるIPO(新規株式公開)に似せて作られた文字ともされる。
(※4)マネーロンダリング対策(AML)の観点から、ICO実施時点では捕捉が難しいため、ICO実施事業者が仮想通貨交換所で仮想通貨を法定通貨に交換するときに一定の基準を設けるべきではないかという議論がある。
(※5)U.S. SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION, “SEC Issues Investigative Report Concluding DAO Tokens, a Digital Asset, Were Securities”, July 25, 2017
(※6)ZDnet Japan「Ethereumで3000万ドル超相当の盗難被害か」(2017年7月21日)
(※7)U.S. SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION, “Investor Bulletin: Initial Coin Offerings”, July 25, 2017

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