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失敗に学んだ経験に学ぶ

2016年09月27日

政策調査部 主任研究員 鈴木 裕

「コーポレートガバナンス改革は、成長戦略の最重要課題である。その位置付けに変わりはない。」(日本再興戦略2016—第4次産業革命に向けて—)との意欲を見せる安倍政権に劣らず、英国のテリーザ・メイ首相も英国企業の競争力を高めるためのガバナンス改革に積極的に取り組んでいる。英国の状況は日本に大きな影響を与えている。スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードは、英国に倣ったものであり、名称だけでなく内容の類似も多い。コンプライ・オア・エクスプレインという、日本では馴染みの薄い規制手法さえコピーしたほどだ。英国首相の英国企業に関するガバナンス改革への取り組みが今後、日本企業に影響を及ぼす可能性は軽視できない。

しかし、日本のお手本となってきた英国のガバナンス改革がうまくいっているかといえば、疑いも大きい。メイ首相自身、「過大な経営者報酬や貧弱な企業ガバナンスに厳正に対処し、企業の無責任に立ち向かう」(Speech G20 Summit, China: Prime Minister's press conference - 5 September 2016)と述べている通りだ。英国の企業ガバナンスの現状に学ぶとすれば、なぜこれまでの英国ガバナンス改革が実を結んでいないか、失敗の積み重ねから教訓を引き出すべきではないだろうか。

ガバナンス改革の焦点の一つは社外取締役の独立性であり、国際的な標準になっていると言えそうだが、これを見直す動きもないわけではない。英国では、米国に倣って独立性のある社外取締役を多数選任することが各種のコードで求められ、2009年頃までに全取締役に占める独立社外取締役の比率は90%ほどになったという。ところがその後、金融危機を経て出されたガバナンス改革の処方箋のWalker review(※1)では、独立性だけでなく取締役候補者の専門知識にも軸足を置いた選任をすべきと提言された。これは現在の英国のコーポレートガバナンス・コードにも踏襲されている。独立性を強調しすぎるあまり、取締役としての専門性(会計や法務、経営経験)に乏しい者を選任したことが金融危機の遠因の一つかもしれないとの反省だ。こうした変化もあって、独立社外取締役の比率は2011年に6割ほどに下がっている。日本に比べればまだ相当な高さであるが、“shift from independence to competence and expertise”(独立性から能力・専門知識への移行)が進んでいるということだ(※2)

失敗から学んだ英国では、「独立性から能力・専門知識へ」と関心が移っていったが、日本のコーポレートガバナンス・コードにもこの経験は読み込まれており、「取締役会は、・・・(略)・・・知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え・・・」(原則4-11)とされている。当たり前と言えば当たり前すぎる記述であるが、この背景には数十年に及ぶ英国のガバナンス改革の試行と失敗、そして失敗からの学習があると思えばなかなか興味深く見えなくもない。

(※1)“A review of corporate governance in UK banks and other financial industry entities Final recommendations” (26 November 2009)
(※2)Harald Baum“The Rise of the Independent Director: A Historical and Comparative Perspective”(Max Planck Institute for Comparative and International Private Law Research Paper Series No. 16/20)

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