日本特有の共生型福祉施設

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2016年04月25日

昨年末、高齢者住宅視察ツアーに参加し、スウェーデンを訪問した。現地で高齢者住宅の運営団体によるレクチャーが行われた際、必ずと言ってよいほど「入居している高齢者は、地域住民や若い世代との交流をどのように図っているのか」といった質問が日本人参加者から挙がった。その度に、運営団体の担当者は、質問の意図がよくわからないといった戸惑いの表情を浮かべた。

日本では、過疎化した地方の高齢化が問題となっており、若い世代のUターンやIターン、地方移住、世代間交流といったことに国を挙げて取り組んでいる。介護分野においても、地域住民や若い学生との交流・共生をアピールする高齢者住宅、シニアタウンも構想されるなど、たとえ高齢者施設であっても高齢者だけの住まいとなることを回避しようとする傾向がある。

一方、スウェーデンの高齢者住宅では、入居者が若い世代との交流を必ずしも望んでいないという。前出の担当者の怪訝な表情はそのためである。もちろん、子や孫との交流がないわけではないし、季節になればクリスマスキャロルを歌う子どもたちが施設を訪れることもある。けれども、早い時期に親元を離れて独立することが一般的なスウェーデンの人々は、自立した自身の生活を大切にしており、高齢期は静かに暮らしたいと望んでいるケースが多いようだ。訪問した施設の中には、学生向け賃貸住居を併設する施設もあったが、高齢者向け居住エリアとは完全にフロアが分かれており、学生エリアの入り口にはロックがかかっていた。そこに住む高齢者は「少なくとも2年間は学生を見ていない」と話していた。

国内では、依然として解消されない特別養護老人ホームの入所申込者の増加や待機児童問題の対策の一つとして、同一施設内に介護、子育て支援、障がい者(児)福祉など、多様な機能を集めた共生型福祉施設の整備が検討されている(※1)。デイサービスやショートステイなどの高齢者向けサービスと、認可保育所や放課後児童クラブなどの児童向けサービス、児童発達支援や放課後等デイサービスなどの障がい者(児)福祉が同じ施設内で提供されることで、限られた人材や設備を効率的に活用できるほか、開設・運営コストも抑制できるという。さらに、希薄化する多世代交流の促進や、地域づくりという副次的効果も期待されているようだ。

財政面の効率化のみならず、高齢者と子どもの交流をポジティブに捉えるのは、日本人特有の見方と言えるかもしれない。同一施設にすることで、感染症や怪我、薬の誤飲など新たな問題も増えよう。それでも、多世代交流や地域社会の結びつきを再現しようと取り組む背景には、子どもを中心とする大所帯の心地よさが我々の記憶に刻まれていることがあるのかもしれない。

実際、共生型福祉施設の先駆けとなった富山県の施設では、高齢者が子どもと触れ合うことで、自分の役割を見つけ、意欲が高まることによる日常生活の改善や会話の促進が見られるという。また、子どもにとっても、高齢者や障がい者など他人への思いやりや優しさを身につける教育機会となっているようだ(※2)

これまでにないスピードで超高齢社会を迎える日本は、諸外国の様々な政策を参考に社会福祉を整備してきた。しかし、限られた資源で受け皿を拡充し、効果的なサービスを提供するヒントは、実は、かつて日本人が当たり前に送っていた生活にあったのかもしれない。共生型福祉施設の日本ならではの効果に期待したい。

(※1)厚生労働省「地域の実情に合った総合的な福祉サービスの提供に向けたガイドライン」平成28年3月
(※2)富山県厚生部厚生企画課ウェブサイト「とやまの地域共生」より

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執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 石橋 未来