中国:なぜ大株主は強制的な株式売却に追い込まれたか

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2016年02月15日

  • 経済調査部 研究員 中田 理惠

2016年、年明けの中国株式市場は急激な下落とともに始まった。株価の急落を受けて、中国当局が大株主に対して保有株式の売却制限を設けたことは記憶に新しい。しかしながら、一部の大株主達は保有株式の売却に追い込まれるリスクにさらされている。

2月2日に上海証券取引所に上場するA社の支配株主が、保有していた株式約1,700万株を強制売却させられたことが発表された。開示情報によると、同株主は昨年7月に保有株式の買い増しを宣言し、これに従ってレバレッジ取引によりA社の株式を1.5億元(約27億円、1元=18円換算)分、株数にして約1,700万株を買い増したが、株価の急落により保証金が不足し、なおかつ追加の保証金が間に合わなかったとのことであった。(なお、同株主は同日に再度A社株式の0.8億~1.5億元分の買い増しを宣言している。)

また、同日に深セン証券取引所に上場するB社の支配株主が支配権を他社に譲渡する予定であることが発表された。支配株主はB社の株式を担保に融資を受けていたが担保不足に陥ったため株式の譲渡を計画しているとのことである。開示情報によると既に当該支配株主はB社株式の自己保有分のうち約97%を担保に入れていたとのことである。なお、証券取引所の開示情報によると年初以降、強制売却には至っていないものの、担保不足により強制売却のリスクに直面した大株主が複数存在していることが分かる。

こうした状況は、どことなく2015年の中国株式の急激な下落の背景を思い出させる。6月の株価急落の開始以前には、信用買いや場外配資によりレバレッジをかけた形で株式を購入していた投資家が多数存在した。6月中旬からの株式の下落を受けて、そうした投資家達は担保でカバーしきれない損失を被り株式の強制売却に追い込まれた。これが下落を加速させた一因となったといえる。

そして、今回は保有する株式を担保に入れて融資を受けていた投資家や、レバレッジ取引により株式を購入した投資家が、株価下落により強制売却のリスクにさらされているのである。

上記のようなリスクを抱えた投資家がどの程度存在するのか、全容は明らかでないが、大株主の保有動向は今後も注視していく必要があるだろう。

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