三世代同居による育児・介護支援について
2016年01月26日
年末から続いた贈答儀礼が一巡し、すっかり日常に戻っている頃だろうか。クリスマスプレゼントの文化は近代以降に欧米から入ってきたものであるが、お歳暮、お年賀、お年玉とそれに伴う返礼は、近代以前から日本で伝承されている慣習である。多くの家庭では、毎年、同じような贈答のやりとりを繰り返していることだろう。
「贈りものをやりとりする習慣は、源了圓の『義理と人情—日本的心情の一考察』(中央公論社、1969年)によると、すでに中世後期の武家社会に成立していたようである。」(※1)「他家より人の物くれたらんには、相当の贈るほどの返しをすべし」(※2)とあるように、恩や世話に対して返礼の義理がかたく結びついている社会規範が根付く日本では、贈りものをもらったら、それに見合うだけのお返しをしなければならない互酬性の原理が、今なお存続しているという(※3)。
さて、2015年末に公表された「平成28 年度税制改正の大綱」において、三世代同居に係る税制上の軽減措置の創設が盛り込まれ、三世代同居による子ども・子育て支援の強化が謳われている。具体的には、三世代同居を目的として住宅の改修(キッチン・浴室・トイレ・玄関の増設など)を行ったときに受けられる所得税額の特別控除制度(※4)が導入される。背景には、少子化の要因の一つである出産・子育てへの不安・負担が、祖父母と同居することで緩和されると考えられていることがあるようだ。さらに、副次的な効果として、同居による家庭内介護により祖父母世代の介護関連費を抑制し、社会保障費負担の軽減も期待しているという(※5)。
ここでは「副次的な効果」と表現しているが、先述の贈答儀礼からうかがえるように、恩と義理が生活に深く根をおろす日本において、子育ての担い手として祖父母を機能させるならば「恩」となり、将来的な家庭内介護は「返礼」と、当然の「義務」と捉えられる可能性が含まれているといえよう。つまり、祖父母の子育て(孫育て)と将来の介護は結びついており、「副次的な効果」にとどまらないと考える方が日本では自然である。もちろん、儒教の精神が名残をとどめている面も少なくないだろうが。
恒久財源を確保し、保育園や学童クラブを整備、維持・管理していくよりは、一時的(※6)な税制上の優遇措置を設ける方が、安上がりな子育て支援策になるだろうし、超高齢社会において介護費用を抑制していくことも重要である。しかし、子育て支援や高齢者介護を伝統的な家族に求めれば、「一億総活躍社会」の実現を掲げ、高齢者や女性の活躍を推進する政府の方針とも矛盾する。同居や近居によって世代間交流が生まれるという利点は無論多いが、そこに育児や介護の負担を期待すべきではないだろう。
最近の政府が掲げる施策には、「三世代同居の希望」や「地方移住の希望」など、「希望」を掲げるものが少なくないが、「三世代同居」や「地方移住」はあくまで個人の選択肢の一つに過ぎず、政治的誘導となるようなことは避けるべきだろう。「一億総活躍社会」と矛盾しない社会サービスの強化が求められる。
【参考文献】
伊藤幹治[2011]『贈答の日本文化』筑摩選書、2011年7月
(※1)伊藤[2011]
(※2)伊藤[2011]
(※3)伊藤[2011]
(※4)工事費用の年末ローン残高の最大2%を5年間、または、工事費用の10%をその年の所得税額から控除できる制度。
(※5)http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2016/request/cao/28y_cao_k_04.pdf
(※6)特別控除制度の適用期間は2016年4月1日~2019年6月30日。
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政策調査部
主任研究員 石橋 未来
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