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インバウンドの裏で進んだ日本人旅行者の国内回帰

2015年12月08日

金融調査部 主任研究員 長内 智

残り少ない2015年の日本経済を振り返ってみると、かつてないほどの活況を呈した市場として、外国人の訪日旅行等を意味する「インバウンド」が挙げられる。訪日外国人観光客の急増が続いたことで、日本政府観光局(JNTO)が公表している「訪日外客数」は、2015年9月までに2014年(累計)を上回っており、2015年は過去最高を更新することがすでに確定している。また、中国人観光客等の非常に旺盛な消費、いわゆる「爆買い」はテレビや新聞で頻繁に取り上げられ、日本の世相を象徴する一大流行語になった。

日本でインバウンド市場が急速に盛り上がった背景としては、近年、政府が訪日ビザの発給要件を緩和したことや、2012年秋以降の大幅な円安進行に伴い、日本に訪れる外国人観光客の自国通貨で見た旅行費と買い物代が安くなったことが挙げられる。つまり、「訪問しやすく」、かつ「割安な」旅先として日本の魅力が高まったのである。足下でも続くインバウンド市場の拡大は、アベノミクス第1ステージにおいて、最も高く評価できる成果の1つだと言えよう。

こうしたインバウンド市場の拡大が国民の大きな関心を集める一方、2015年は、日本人が「海外」から「国内」へと旅先を大きくシフトさせた年でもあった。観光庁が公表している「主要旅行業者の旅行取扱状況速報」のデータを見ると、「海外旅行」が2014年後半から減少傾向となったのに対し、「国内旅行」は増勢を強めたことが確認できる。すなわち、日本人旅行者の「国内回帰」とも言えるような現象が起こっていたのである。

日本人旅行者の国内回帰は、円安の進行によって「円」の購買力が低下し、海外旅行が国内旅行に比べて割高になった影響が大きい。実際、リーマン・ショック後の過度な円高局面と比較すると、海外での宿泊料や買い物代は円ベースでかなり上昇している。また、海外で相次ぐテロ事件を受けて、旅先の「安全」に対する懸念も旅行者心理に影を落としたと考えられる。

しかし、日本人が国内旅行を選択する理由は、決して後ろ向きのものだけではない。例えば、2015年3月の「北陸新幹線」の開業に伴い、北陸地域に足を運ぶ日本人観光客が大幅に増加した。近年、世界遺産に登録された建物や地域、人気テーマパークの新アトラクションなどでも、日本人観光客が増えている。さらに、非常に人気の高い「豪華クルーズトレイン」は、なかなか予約の取れない状況が続く。

以上のようなインバウンド市場の拡大や、日本人旅行者の国内回帰の動きから浮かび上がってくるのは、悠久の歴史を持つ日本の観光地としての魅力である。2015年の日本経済は、景気回復ペースが急速に鈍化して「踊り場」局面入りするなど、冴えない話ばかりが目立つ。しかし、長期的な視点で見つめ直せば、2015年は、「インバウンド」や「爆買い」という流行語とともに、日本が観光大国に向けて大きな一歩を踏み出した年として記憶に残ることだろう。

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