アジアで広がるファンド・パスポート構想
2015年11月24日
ASEANにおける経済共同体創設の取組みの1つとして、投資信託の相互販売制度であるFramework for the Cross-border Offering of ASEAN Collective Investment Schemes(ASEAN CIS)が2014年8月より開始された。今のところ、シンガポール、マレーシア、タイの3ヶ国で一定の基準を満たす投資信託の相互販売(公募)が可能となっており、他のASEAN諸国も今後参加する予定である。ASEAN CISはファンド・パスポートと呼ばれる制度の1つである。
投資信託の公募は募集を行う国の法律等に従う必要がある。多くの国で公募するためにはその数だけ法律等の基準を満たす必要があり、手続きが煩雑になる。これに対し、相互販売が可能なファンド・パスポート制度の下では協定を結んだ国において自国で承認された投資信託が簡素な登録手続きで公募できる。
最近、このようなファンド・パスポート制度がアジアの他の国・地域でも広がってきている。中国と香港によるファンド相互承認は2015年7月より始まり、APECが進めるアジア地域ファンド・パスポート(ARFP)は2016年9月頃の開始が予定されている。現時点のARFPの参加表明国は日本、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、フィリピン、タイとなっており、タイはASEAN CISと重複する。
これらのファンド・パスポート制度の狙いの1つは、経済発展で増加するアジアの中間層の資産運用ニーズを取り込むことにある。各国の市場間ではそのための競争が起こっており、また各々のファンド・パスポート制度の規格を普及させる勢力圏争いが激しくなると見込まれる。いち早く大きな市場を構築することが決定的に重要であり、経済規模や貯蓄額の大きい国・地域を取り込んだ協定が優位になるだろう。
ASEAN CISの参加国と参加を予定する国々の経済規模等の合計は、他の2つのファンド・パスポート制度に参加する国・地域の合計よりも現状では小さい。十分な競争をするためには参加国を増やすことが方策の一つとして考えられる。あるいは競争ではなく、協調という方法も考え得る。他の2つのファンド・パスポート制度と相互協定を結ぶのである。
現実的には相互協定を結ぶことになるかもしれない。ファンド・パスポート制度の先駆けであり、販売地域がアジアを含めた世界に拡大しているEUのUCITS(Undertakings for the Collective Investment in Transferable Securities)に準拠した投信信託がアジアの市場でも増加しているためである。UCITSは規制体系が十分に整えられており、頑健なリスク管理体制と投資家保護を備えていると評価されているため、UCITSに準拠した投資信託は信頼性が高いとされる。つまり、アジアのファンド・パスポート制度はアジア内の制度間ではなく、UCITSと競合しているのである。
アジアにおけるファンド・パスポート制度の動きに注目したい。
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政策調査部
主任研究員 神尾 篤史