策定して公表すべきか?
2014年12月10日
日本版スチュワードシップ・コードが2014年2月に公表され、今度はコーポレートガバナンス・コードが作られようとしている。どちらもComply or Explain型の規制だ。これは、規制に示された事項をComply(遵守)するか、遵守しないのであればその理由をExplain(説明)するというものだ。Comply or Explain 型の規制では、その内容で遵守できるものは遵守し、できないものはその理由を説明するということになる。
Complyを求められる事項として、投資家行動や企業行動に関するさまざまな方針の策定と公表がある。例えば日本版スチュワードシップ・コードでは、「原則1 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。」とされている。コーポレートガバナンス・コードによる情報開示でも、かなり多くの事項について、「公表」「開示」「説明」など用語は異なるが、何らかの情報の公開を求められている。数え方にもよるが、20以上あるだろう。
情報開示は、情報を開示することが有益だと考えられるから行われる。例えば消費者向けの情報開示は、品質や原材料を明示することで消費者を安心させるとともに、それによって購買意欲を刺激し企業側の売上を増加させるツールともなる。投資家に向けた情報であれば、投資家の不安感を取り除き、要求されるリスクプレミアムを減じる効果がある。リスクプレミアムの減少は、企業の資金調達条件を有利にするかもしれない。従って、情報開示の充実は、一般に情報の受け手にとってだけでなく、出し手にとっても益となるところが大きいといえるだろう。とはいえ、コストがかかる割に効果が小さいということも考えられる。ほとんどの投資家が関心のない情報を開示したところで、投資が膨らむわけではない。
コーポレートガバナンス・コードの検討を進める有識者会議では「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方に係るたたき台」(※1)をもとに議論が進められているところだが、政策保有株式に係る議決権行使に関する基準(原則1-4)、関連当事者間の取引に関する承認等の手続(原則1-7)、取締役・監査役に対するトレーニングの方針(補充原則4-14②)などのさまざまな情報開示が求められている。これらを投資判断の材料にしようとする投資家がどれほどいるというのだろうか。もちろん、情報の受け手は投資家に限られないのかもしれないが、誰がどのように利用する情報なのか、よくわからないものがあるように思える。企業内部の規定としては、作っておく必要があるのかもしれないが、公表、開示をすることによって、何か利益は得られるのだろうか。Comply or Explainであるから、理由が説明できるなら策定しないという選択もできる。また、策定はするが開示はしないということも説明がつくなら可能だろうが、説得力のある非公表の理由を考えるのは難しい。
コーポレートガバナンス・コードによって、3,400社を超える上場企業が、さまざまな情報開示に取り組もうとしている。Complyするのか、それともExplainを選ぶのかいずれにせよ、ある程度の作業負担は生じるはずだ。こうした企業側の努力は、どのような形で報われるのだろうか。
(※1)コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議(第7回)資料(平成26年11月25日)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
- 執筆者紹介
-
政策調査部
主席研究員 鈴木 裕
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
2025年1-3月期GDP(2次速報)
実質GDP成長率は前期比年率▲0.2%に改善するも民間在庫が主因
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日