人材不足に悩むとき
2014年12月09日
日本では少子高齢化と労働人口の減少が進む中、景気の回復や2020年のオリンピック開催等に向けて企業活動が活発化しているため、各所で人材不足が起きている状況となっている。
企業内においては、筋肉質な企業体質を作るために、成果主義色の強い制度導入や合理化のためのリストラを断行してきたことによる弊害が出てきていると聞く。成果に重きを置きすぎた評価・賃金制度により、社員は短期的思考や個人思考に走りがちになり、コミュニケーション不足や部分最適が助長され、かつての日本的特徴であった「チーム力」「助け合い」「思いやり」が欠如しかけているというのだ。また、リストラを行った結果、残された社員が業務過多になり、一層の肉体的・精神的な負荷がかかっているにも関わらず、前述のコミュニケーション・助け合い等の欠如により、未然に救済できずに休職にいたるケースも出てきている。バブルの反動による弊害も見逃せない。バブル崩壊後に新卒採用を抑制したことにより、バブル世代は人材を育成・指導する機会がないまま中年世代となったことで、人材育成の連鎖が断絶してしまった。このため若年層が入社しても、「放牧」状態で孤立感を感じ得ず、数年もしないうちに流出していくケースが散見される。
そこで人材不足を解消するための対策として、(1)人材の多様化、(2)業務改革、(3)環境改善の3つの視点から考えてみたい。
「人材の多様化」は文字通り、シルバー層・女性・外国人の活用やパート等の戦力化、若年層の引き止めである。本人の活力向上だけでなく、埋もれている人材を発掘し潜在能力を引き出すことができる上、社員にとっては業務分担が可能になったり、多様な視点からの刺激を受けることができたりするという利点が出てくる。
「業務改革」は、従前の業務プロセスを疑ってみるということである。従前のやり方を継続する前提では、少数の人員では対応しきれない。従い、その常識を打ち破ることが必要となろう。本当にこの業務は3人でやらないとできないのか。2人でやるためには、どこを省略するべきか。または他に新しいやり方はないか等を考えていくことにより、業務プロセスの省略化・効率化が実現することになる。
「環境改善」には、働き方の見直し、健康推進、適正な評価と運用、社内活性化等があげられよう。多様な人材がそれぞれ働くためには、短時間労働や地域限定職等の多様な働き方を提供する環境・しくみが必要となる。一見、自分は他の働き方をしないと思われるかもしれないが、共稼ぎや両親の高齢化等により、子の育児・看護や両親の介護等を行うケースは必ず増加していく。自身の人生のイベント時に働き方を転換・復帰できるルートがあることは、多くの社員が長く働くためにも有用であるといえる。また、企業は労働時間の管理や各社員の健康・心理状態を把握できるしくみを整備しておく必要もあろう。限られた全社員が健康かつ元気に働けることが実は人材不足を解消する早道なのかもしれない。適正な評価・運用を要素としてあげたのは、成果主義から職能主義等への一部回帰・揺り戻しが起きている企業が増加していることを受け、いま一度、持続的に成長する企業に必要とする人材の評価の在り方につき検討してみることをお薦めする。そして社内活性化策である。人事制度という固い制度やしくみではなく、もっと気軽に一体感を醸成できるものがないか考えてみてはどうか。社員旅行や運動会を復活させた会社もあるようだが、もっと手軽でシンプルなものでもよい。ゲーム的なものや、憩いの空間の設置、ホテルの会場を借りて「○○アワード」を毎年開催する等、何でも良い。その会社らしいもので、皆が参加したくなり、緩やかな連帯感が生まれるような面白いイベントを遊び感覚で考えてはいかがだろうか。
人材不足を解消する方策は、案外身近にありシンプルなものかもしれない。
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主席コンサルタント 元秋 京子