「おもてなし」の準備は万全か

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2014年10月27日

ダイバーシティーの重要性について、各方面で提唱されるようになった。長らく協調性が重視されてきた日本人も、同じような背景を持つ者同士が同じ方向を向いているという心地よい状況を脱し、新たなステージへ向かう必要性が出てきた。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてさまざまな「おもてなし」が検討されている様子だが、画一的な価値基準に慣れ過ぎた私たちの、世界中から多様な民族を迎える準備は充分だろうか。交通機関のスムーズな連携や円滑なコミュニケーションの重要性というような項目の陰で、意外と見落とされてしまっているのが、食の問題かもしれない。

「選り好みせず、残さず食すことが基本」と教えられ育ってきた私たち日本人は、誰でも彼でも同じように同じものをおいしく食べることができて当然、と思っている傾向がある。しかし実際は、宗教上の理由や健康上の理由などから制限がある場合も多い。そういった人々にとって、わが国の食事情はバリアフリーになっているのだろうか。

国内でも外国人比率の高い都心部においては、世界各国の料理店が軒を連ね、異国グルメを堪能することができる。しかし、それらの中からでさえ、いざヴィーガン(※1)やムスリム(※2)、グルテンフリー(※3)などに対応した飲食店を探すとなると、選択肢はかなり限られてしまう。また、スーパーマーケットに並んでいる各食品を見ても、メーカーが異なるだけで、原材料などは大して変わらないように思える。

一方、海外の飲食店では、ベジタリアンやグルテンフリー対応食が通常のレストランでもメニューに用意されており、異なる食の嗜好を持つ者同士が同じ食卓を囲むことも可能であることが多い。また現地のスーパーマーケットを覗いて感心してしまうのは、例えば、同じメーカーのビスケットにしても、ノーファット、シュガーフリー、オーガニック、ホールグレイン(全粒粉・全粒穀物)、グルテンフリー、アレルゲンフリーなど多種類用意されており、消費者にとって選択の幅が広いことだ。特に観光地ではこういった光景がよく見られる。多様な民族を受け入れている地域であれば、食習慣・食文化が相応に異なることも当然と捉えられているのかもしれない。

提供する側からすれば、単一種類を調理、生産、製造する方が、安全で効率的だろう。しかし、来る2020年の東京オリンピック・パラリンピックを、グローバルな成熟国として世界にアピールする場と考えるのであれば、さまざまな事情を持つ者同士が食を介して集える場を数多く提供する方が、無形文化遺産に登録された和食をやみくもに掲げるよりは、「おもてなし」に値するのではないだろうか。小さな食の場面にも、ダイバーシティーに対する日本人の姿勢が試されている。

(※1)魚や肉を摂取しない一般的なベジタリアンより厳格な菜食主義者のこと。
(※2)イスラム教徒のことで、肉類やアルコールに対して宗教上の制限がある。
(※3)麦類に含まれるたんぱく質「グルテン」を除去した食品。欧米で比較的多いセリアック病患者は、グルテンを摂取することができない。

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執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 石橋 未来